前回の|その5|には、アベノマスクを実際に洗って使ってみての実感をまとめた。
今回は|その2||その3||その4|にひきつづき、同梱されていたパンフレットの観察・考察に戻る。
これまで考察を重ねてきて、このパンフレットの顕著な特徴はつかめている。
図やイラストや記号を散りばめることで、なんとなく“それらしく”まとめられているが、品質表示の記載がなかったり、説明不足だったり、言葉づかいやイラストが変だったりする、という特徴である。
さて最終ページの「新しい生活様式」の実践例はいかに?・・・と見れば、シルエットイラストが上下に配置されて、まあ、またそれっぽいですね。笑
まずは、大まかな内容を把握するために、「タイトル」と2つの「見出し」に注目してみる。
ページタイトル:
「新しい生活様式」の実践例
2つの見出し:
①一人ひとりの基本的感染対策 感染防止の3つの基本
②日常生活を営む上での基本的生活様式
これを見て、「書かれていることの概要がよくわかる!」っていう人は、いるだろうか? いないよね?笑
とくに①は、一人ひとりの基本的感染対策という見出しのうしろに「感染防止の3つの基本」という小見出しのような文言が配置されていて、なにやら紛らわしい。というか、すごく変。あとでじっくり見ます。
一般的には、タイトルは大きなくくりで、見出しはタイトルよりも小さなくくりになっていて、同類項で整理されているとか、順番づけられているとか、何らかの基準によって秩序づけられているものである。
だから読者は、タイトルや見出しを一目見れば、そこに書かれていることの方向性をおおよそ想像することができる。
しかし、この「新しい生活様式」の実践例のタイトルのもとに置かれた①と②の2つの項目が、何によって秩序づけられているのかは、にわかに掴めない。
だって、
①一人ひとりの基本的感染対策 感染防止の3つの基本
②日常生活を営む上での基本的生活様式
ですよ。
もし、タイトルが「新しい生活様式」の実践例で、①基本的生活様式、②応用的生活様式となっていたら、「ああ、新しい生活様式には、基本と応用があるのね」ってわかるじゃないですか。でも、そういう整理の仕方じゃない。秩序づけの切り口が、まったく見えないのだ。
そこで、それぞれの核であろうと思われるワードを拾ってみる。
タイトル:新しい生活様式
見出し:①基本的感染対策
見出し:②基本的生活様式
ふむ。なんとなく手がかりが見えてきたような気がしてきたような?
図で表すと、こんなふうになるのかな?
どうですか?・・・わかるみたい?
わかるみたいだけど、まだ漢字の羅列に理解を拒まれてる気がしませんか?
そこで、2つの項目には「基本的」が両方とも付いているので、それは共通項とみなして外してみましょう。
するとどうなるか?
ふむ。すっきりはしたけど、どうなんだろう?
新しい生活様式 = 感染対策 + 生活様式
・・・って?
ちなみに、図をこんなふうにしてみても・・・
うーん、どうでしょ?
そろそろ具体的な内容を見てみたら、謎が解けるかな?
・・・と思ったとたんに、つまずきました。
見出し①一人ひとりの基本的感染対策の横に「感染防止の3つの基本」と記されているから基本は3つだろうと思うと、その下に6つの☑️マーク付きの内容が箇条書きにされているのですよ。
しかも、3つの基本には、下の6つの☑️と重複しているものと、そうではないものがあるからややこしい。3つなのか、6つなのか、はっきりしてくれ!
(思わずキレそうになってしまったが、あきらめずに続ける。)
3つと6つの関係を見極めるために、重複しているものを色別に、「身体的距離の確保」=青、「マスク」=オレンジ色、「手洗い」=赤で丸をつけてみると、こうなる。
こうしてみると、こんな感じで「感染防止の3つの基本」を6つに展開しているつもりなのかな?という気がしてきた。↓
◉身体的距離の確保
= 人との間隔は、できるだけ2m(最低1m)空ける。
→ 遊びにいくなら屋内より屋外を選ぶ。
→ 会話をする際は、可能な限り真正面を避ける。
◉マスクの着用
= 外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用。
◉手洗い
= 家に帰ったらまず手や顔を洗う。できるだけすぐに着替える、シャワーを浴びる。
→ 手洗いは30秒程度かけて水と石けんで丁寧に洗う(手指消毒薬の使用も可)。
・・・もしこんな感じに展開しているつもりだとしたら、レイアウトがひどい。ひどすぎる。3つの基本と6つの箇条書きの関係があまりに整理されていない。
しかも驚くことに、これらの重複が②日常生活を営む上での基本的生活様式にも及ぶのである(緑色でマークしている部分については後ほど触れる)。
身体的距離の確保は、①感染対策にも②生活様式にも出てくる。
手洗いも、しかり。
だけどマスクは、①感染対策に出てくるけど、②生活様式には出てこない。
さて、どういうことなんでしょうか。
身体的距離の確保と手洗いは、感染対策であり生活様式である。
でも、マスクは、感染対策だけど生活様式ではない。
・・・この分類に、どんな秩序をみいだせというのだろうか?
(なんか、もうどうでもいいって気持ちになってくるぜ。)
しかも、この最終ページの前の「新型コロナウイルスを防ぐには?」のページにも、同じような事項が重複して列挙されているである。
手洗いと、先ほど保留した緑色でマークした体温チェク&熱のあるときは無理せずに休むという内容である。
こちらです。↓
・・・この情報の重複は、いったい何を意図しているのだろうか?
思うに、何も意図していないのだろう。
単に、情報の消化不良、あるいは乱雑さのようなものなのだと思う。
きちんと編集しようという意図がまったく感じられない。
読み手が混乱をきたさずに理解できるように編集しようとする配慮などなく、ただ適当に並らべただけにしか見えない。
思えば、「新しい生活様式」の実践例とは、新型コロナウイルス感染症専門家会議が5月4日に提言したものである。厚生労働省の新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例を公表しましたに書かれている。
そこに示されているのは、こちら。↓
今回、考察しているアベノマスクに同梱されたパンフレットの元ネタがコレだということは、一目瞭然である。
この元ネタの情報自体が雑然としているのだが、それをコンパクトに縮小したものだから、さらに消化不良の状態に陥ってしまったようである。
おそらく5月4日の専門家会議からの提言を反映すべく、パンフレットは大急ぎで改訂されたものと思われる。
というのも、|その2|を読んだ友人が違うバージョンのパンフレットの写真を送ってくれたのだ。そこには、「新しい生活様式」の実践例の記載はなく、最終ページには「3つの密を避けましょう!」がドーンと大きく示されていた。その友人は私よりも早くアベノマスクを受け取っていたから、まだ「新しい生活様式」の実践例が専門家会議によって示される前に制作されたパンフレットが同梱されてきたのだろう。
しかし、これほど消化不良の情報になってしまうなら、わざわざ急いで改訂版を制作する必要などなかったのではないかと私は思う。
そもそも市中に不足しているマスクを補填すべく4月1日に安倍首相が「布マスク2枚の全戸配布」を表明したのに、6月1日時点で全国での配布率は約53%。そのときすでに店頭には不織布やナイロンや布などの多様なマスクがそこそこ出回っていたという状況を思い出してほしい。
遅かったのである、アベノマスクの配布は。
そんな遅滞した実情にもかかわらず、同梱パンフレットの情報に速報性を求める人がどこにいただろうか。いるはずがないではないか。
中途半端で理解に苦しむ「新しい生活様式」の実践例の説明を加えるくらいなら、「アベノマスクは届くのも遅かったし、パンフレットにはまだ“人との接触8割削減目標”なんて刷られてるねー、懐かしい気がしちゃうよねー」という微笑ましい展開で充分だったんじゃないだろうか。
あなたは、どう思いますか?
これまでに何度も指摘しているように、耳にタコができるくらい「国民のみなさまにていねいに説明をいたします」と繰り返すだけで説明責任を放棄しているリーダーが、決定プロセスが見えないブラックボックス方式で拙速に肝入りで進めた政策のパンフレットのことである。
その「新しい生活様式」の実践例の説明は、何度も同じキーワードを並べ、何度も「先ほど申し上げたように」を繰り返すリーダーの薄っぺらで不誠実なレトリックを彷彿とさせると私は感じる。
このような代物を、私たちが収めた税金あるいは未来からの借金でつくるのはいかがなものか。
あらためて強く疑問を呈して、パンフレットの観察・考察をひとまず終えることにします。
せめて改訂版を制作したときに、余ってしまった旧バージョンが大量に廃棄されるような資源の無駄使いが行われていなかったことを切に願う。
が、パンフレットの雑なつくりを見るにつけ、きっと大いに無駄を生じさせたのだろうな、という気がしてならない。
ほんとのところ、どうだったんでしょうね。気になります。