7月28日の夕方に「布マスク、今後さらに8千万枚を配布」のニュースが流れてきて、まさかまさかと驚いていたのもつかの間、世論からも野党からも非難轟々浴びた結果、2日後の30日には「政府が介護施設などに配布するとしていた布マスク約8千万枚について、厚生労働省は30日の野党合同会合で、今月中の配布開始を断念すると説明した。(東京新聞7月30日20時51分配信記事)」
不評でも、やる。不要でも、やる。やると決めたら、やる。
ほかの人がしていなくても自分はつける、毎日つける。
そんな意固地な姿勢を4ヶ月も貫いてきた安倍首相だったが、さすがにここで断念したようだ。
しかし発注済みの大量のアベノマスクはどうするのだろうか。
不要です、小さいです、使いづらいです、使わないです、という私たちの声を完全に無視して発注しすぎた責任は、誰がどうやって取るのだろうか。
と、またもモヤモヤさせられていた8月1日、断念ニュースのわずか翌々日に、こんどはこんなニュースに驚かされた。
「安倍晋三首相は1日、いつもの小さめの布マスクではなく、鼻から顎まで覆うタイプの白いマスクに替えて首相官邸を訪れた。(日経新聞8月1日19時40分配信記事)」
なんてこった。変わり身の早いこと。
こんな展開になってすぐに、3月末からずーーーーーっと愛用し、ほとんどトレードマークと化していたアベノマスクを、こうもあっさりと切り捨てるとは(首相官邸ホームページの「新着情報」の写真をたどってみると、安倍首相は3月31日の「第3回経済財政諮問会議」からアベノマスクをつけている)。
「今後に関して首相周辺は『今までのものも使うと思うが、いろいろなものを着けると思う』と語った。(時事ドットコムニュース8月1日20時4分配信記事)」・・・「首相周辺が〜と語った」ってことは、自身は何も語っていないということだ。
あれほど有用だと主張していた布マスクの再配布を断念してまもなく、まるで何事もなかったかのようにシレッと違うマスクをしてきて自分では何の弁明もしない。自らの名をもじられた愛称(?)までつけられた品に対しての敬意も愛情もみじんも感じられない姿勢に、彼の不誠実さとユーモアの欠如がにじみ出ている。
おい、君、そこの安倍くん、アベノマスクに失礼だぞ。
立て続けてに思いがけないニュースが流れてきたものだから、また前置きが長くなってしまった。
しかし、こんな展開になったからには、ますます「忘れてはならぬぞ」と心を引き締めて続けていこうと思ってます。
で、今回は予定通り、前回につづいて布マスクに同梱されてきたパンフレットの読解を進める。
前回じっくりと観察・考察した表紙をめくると、見開きページになる。
左ページには洗濯について、右ページには新型コロナウイルス感染予防のポイントとマスクの着用方法について示されている。
アベノマスクの大きな目玉は「洗って何度も使えること」だけあって、表紙の次のページは全部、洗濯についての説明に割かれている。
ただ、洗濯も大事だけど、そもそも感染予防が大前提のマスクである。だから、着用方法は不可欠な重要ポイントだと思われるので、ここではまず、右ページ下に示されている「正しいマスクの着用」なる項目から見ていくことにする。
イラスト入りの3ステップで表現されていて、なんとなくわかりやすそうな雰囲気が醸されている。
でも、一見わかりやすそうなわりに、じっくり見てみると、あんまりわかりやすくない。
というか、なんか変。
ゆっくりと、意味を確認しながら読んでみてくださいね。
① 鼻と口の両方を確実に覆う
② ゴムひもを耳にかける
③ 隙間がないよう鼻まで覆う
・・・どうでしょう?
あなたは変だと思った? 思わなかった?
私が変だと思うのは、③の「隙間がないよう鼻まで覆う」である。
だって、①の「鼻と口の両方を確実に覆う」で、すでに鼻は覆ってあるんですよね。③であらためて鼻を覆えって言われても、ね、もう確実に覆ってあるわけじゃないですか。
いったい、どういうことなんでしょうか?
もしかしたら、アベノマスクってものは②でゴムひもを耳にかけると鼻が出ちゃう仕組みになってるのかな?と思って、実際にやってみましたよ、ほんとに、リアルに。
でも、ゴムひもを耳にかけたら、「あれ?鼻が出ちゃった!」なんてことはないんですよ。やってみて、実証しましたから、私。
そもそも②をやったら鼻が出ちゃうようなモノがあったとしたら、その形状はもうマスクとは呼べない別物ですよね。
まじ、意味不明です、この説明。
鼻出しスタイルでマスコミ露出度が高かった副大臣の真似はしちゃダメだよ、と国民に忖度させようという魂胆で、あらためて③で鼻を覆うよう念押したのだろうか?なんて猜疑心がふつふつと沸いてくるではないか。笑
参考までに、私が常用している5段プリーツマスクのパッケージの裏側に印刷されている「使用方法」を見てみよう。
① 顔にフィットさせつつ耳にゴムひもを掛けます。
② ノーズフィッターを鼻のカーブに合わせ、顔にフィットさせます。
③ プリーツを上下に広げて顔の大きさに合わせて調整してください。
・・・いたってわかりやすい。示された手順通りやればすっきりマスクがフィットする。
アベノマスクには「ノーズフィッター」も「プリーツ」もないから着用方法が違うと言いたいのではない。
むしろ、「ノーズフィッター」も「プリーツ」もなくても、基本動作は同じだよね、っていうことが私は言いたい。
で、「正しいマスクの着用」の①と②につづく③は、「隙間がないよう鼻まで覆う」のではなく、「なるべく隙間ができないよう調整する」って言えばいいよね、と確認したくてわざわざ5段プリーツマスクの使用方法をご覧に入れたんです。
いやはや。
よけいな遠回りをして、息切れしそうだ。
でも気を取り直して、あらためて見ておきましょうかね、「正しいマスクの着用」。
あれ? ・・・あれあれ?
あらためて見てみたら、イラストも変だなー、って気づいてしまいましたよ。
①のイラスト、よーく見てくださいね。
②の「ゴムひもを耳にかける」の前なのに、すでにゴムひもが耳にかかってるんです。笑
念のため、②のイラストもお見せしますね。
・・・やれやれ。
突貫工事で作ったんでしょうかね、このパンフレット。
プロの校正さん、入れなかったのかな。
A4二つ折りのパンフレットは大きな印刷物ではないけれど、全国全戸に配布するために刷るならば、ていねいに校正チェックすべきだったと思います。
耳にタコができるくらい「国民のみなさまにていねいに説明をいたします」と繰り返して説明責任を放棄しているリーダーが、決定プロセスが見えないブラックボックス方式で拙速に肝入りで進めた政策のパンフレットであることを思い起こせば、一見ていねいそうなのに説明が中途半端だったり雑な仕上がりだったりするのは推して知るべしなのかもしれない。
が、しかし。
「どうせ省庁がつくるパンフレットなんてこんなもんでしょ」とあきらめてはいけないと私は思う。
制作途中で、「この表現、変ですよ」「これじゃ、わかりませんよ」「この絵、まちがってますよ」と気づいた人はいなかったのか? 指摘できる人はいなかったのか? もしかして、指摘したけど「そんな瑣末なことは放っておけ」「上は、そんなこと気にしない」「時間がないんだ」などと言われて引き下がってしまった人がいたのかな?
ほんとのところ、どうなんでしょうね?
印刷物といえば、一枚のチラシであろうと一冊の本であろうと、複数人で目を皿のようにして何度も校正チェックをしても、「えーっ!? みんなでチェックしたのに、こんなところを見逃してしまったの?」という失敗に肩を落とすことはままある。
だけど、このパンフレットはそのレベルではないように感じる。業界の片隅に身を置く編集者として、あまりに恥ずかしすぎる、悔しすぎる。
今回は、洗濯の説明についても観察・考察をするつもりでいたが、またも文字数が多くなってしまった。ああ、突っ込みどころが満載すぎる。笑
というわけで、パンフレット検証は、次回もつづけます。