山本太郎さんの国会議員としての6年間、その成長と実績をたどる本『僕にもできた! 国会議員』から見える日本の政治

気になること

山本太郎/雨宮処凛 取材・構成『僕にもできた! 国会議員』(筑摩書房2019年4月)を読んだ。

山本太郎さんといえば、きっとあなたもその名と顔を知っているだろう。
そう、かつてNHKの大河ドラマにも出たことのある俳優だった人。そして2011年3月11日の東日本大震災にともなって起きた福島の原発事故をきっかけに反原発運動に参加し、2013年7月の参議院議員選挙で立候補して国会議員になった人である。

今は「れいわ新選組」の党首として、わかりやすい言葉で政治の仕組みや現政権のごまかしを解説する動画を配信したり、社会的に弱い立場にいる人たちのために奔走したり、精力的に活動していることを、私は主にSNSやYouTubeで目にしている(主要メディアでは取り上げられないので)。
だけど、実際に彼が国会議員としてどんな6年間を歩んできたのかは、断片的にしか知らなかった。で、この本を手にとってみた。

なんとも重い冒頭に、まず、驚いた。

彼は、しばしば「死にたい」と感じているというのだ。
死にたくなるのは、
・政治家になる前の自分が、生きるに値していたのかを自問するとき
・自分のことしか考えず、悲惨な社会づくりに加担していた過去を自覚するとき
・多くの人たちが生きづらさの中にいるのに社会を変えられない無力さを痛感するとき
etc.

そして彼は言う。

そんなに死にたければ、さっさと逝ってください、こちらには影響ありませんから。そう思った方もいるだろう。
でも「死ね」と言われると、生きたい気持ちが湧いてくる。
まだやり残したことがあるという意地がある。
死にたいと普通に考える社会を変えたいという思いがある。

山本太郎さんは、自分が生きるに値する人であるために「死なない」という道を選択し、「死にたい」と感じるほどの無力感をバネに日々行動しているのだ。
まさか、これほど切羽詰まった悲痛な思いを胸に議員生活を送っていたとは、想像していなかった。

「目立ちたくて政治家になったんでしょ」「売名行為でしょ」などとディスる人もいるが、この本を読めば、そんな指摘はまったくの御門違いだということがわかる。

太郎さんが超えてきた壁を知ると、日本の政治への希望が生まれる

政治に関してはまったくの門外漢だった彼が、走りながら学び、走りながら議員として何をすべきかを考え行動してきた軌跡が、この本には多面的に描かれている。章によって、ルポ・対談・Q&Aなどスタイルも多様だ。

彼は、被災地にも自ら出かけていく。ホームレスの支援現場では自ら配食を手伝う。そして貧困問題やDV被害者支援などに携わる活動家たちや当事者たちから現状の悲惨さを学び、国会での質問や要求につなげる。
並行して、経済や政策の専門家からレクチャーを受けて目指すべき政治のあり方を構想し、街頭演説を重ねる。そして国会での質問や要求の経験を積み、自由党と組むようなこともしながら政治家としての立ち位置や振る舞いを試行錯誤していく。

ともかく地道だ。彼の活動は、ものすごく地道なのだ。
「僕にもできた、国会議員」というタイトルではあるが、「彼だからできた」と思わずにはいられないタフさ、エネルギー、思考力、行動力である。圧倒される。

具体的な実績の数々も、この本に紹介されている。

例えば、自民党議員たちが「赤坂自民亭」で飲み会をしていて災害対策の初動が遅れた2018年7月の西日本豪雨。彼は災害支援活動NPOの友人と連絡を取り合って現状を把握し、「一刻も早く被災地に小型重機を」と国会で要求しつづけた。そして安倍首相が触れられたくない疑惑についての質問でプレッシャーをかけ、「柔軟かつ迅速に対応する」という言質を取って小型重機100台を送る対策を実現した。

あるいは、2015年8月に成立した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」への「附帯決議」に、「配偶者からの暴力およびストーカー行為等により、女性の職業生活における活躍が阻害されることがないよう、被害の防止及び被害者に対する相談・支援体制の充実を図ること」という文言が加えられたのは、彼の働きかけによる。
おかげで支援者は、役所に対してケアを求めたり企業に支援を求めたりするときの根拠としてそれを示すことができるようになり、実際にDV被害者が就職先を見つける手助けにつなげられたという。

こうした実績を積みながら彼は、与党議員や省庁との交渉のコツや、制度の使い方のコツをつかんできた。
読みながら、「なるほど、政治ってこんなふうに機能してるんだ」と学ぶことができる。そして、太郎さんといっしょに成長できたような気がしてくる。

この本は、2019年4月に発行された。
その後の舞台裏も、いつか読みたいと思う。
なにしろ、昨年2019年7月の参院選はエキサイティングだったから。

山本太郎さんは選挙に先立つ4月1日に政治団体「れいわ新選組」を立ち上げた。
そのネーミングはもとより、8人の候補者の多様性も、「反緊縮」の経済政策も、ものすごく新鮮だった。
そして、この選挙のために新設された「特定枠」の仕組みを利用して、重い障害のある2人の参議院議員を誕生させるという奇跡に、驚嘆せずにはいられなかった。

そもそも「特定枠」とは、立候補した人は事務所を構えることもポスターを貼ることも禁止される代わりに、他の候補者よりも優先的に議席を得ることができるという仕組みで、自民党が2つの県にまたがる「合区」で確実に議員を出せるように考えられた、いわばズルい制度だったのだが、それを逆手に取るという奇想天外な技に目を奪われた人は多かったことだろう。
代わりに山本太郎さんは議席を失ったけれど、政党要件である得票率2%をクリアして晴れて「れいわ新選組」は「政党」にもなった。

とかく利権や汚職がらみの疑惑が多すぎるのに、現政権がずぶずぶと長く続いている。
「さまざまなご批判は真摯に受け止める」「責任は首相である私にある」と壊れた録音機のように何度も何度も繰り返す人が、リーダーの座にいつづけている。
あまりの倦怠感に政治から目を背けたくなる現状だが、弱い立場にある人の視点から政治を変えようとする彼のような異端の存在はほんとうに貴重だと思う。

山本太郎さんの地道な歩みを共有するためにも、政治への希望をつなぐためにも、『僕にもできた! 国会議員』をおすすめしたい。
終盤に掲載されている経済学者の松尾匡さんと朴勝俊さんとの対談では、新自由主義経済に対抗する「反緊縮」の経済政策についても、わかりやすく説明されている。ウィズ・コロナ時代の社会を考えるためにも役立つ本だと思う。