マリアの旅立ちは、訪問火葬で。

気になること

2024年1月22日早朝に愛犬マリアが永眠した。15歳だった。
翌日の夜に訪問火葬をお願いし、きれいなお骨が手元に残された。

訪問火葬とは、炉を備えた「セレモニーカー」が自宅まで来てくれて、そこでペットを火葬してくれるサービスだ。
ホームページを見て想像はしていたけれど、車のバックドアを開けると祭壇のような室礼になっていてお焼香はそこでできて、その奥に炉がある。外見は普通のワンボックスカーなのに、機能的でコンパクト。驚きだった。

体重2kgちょっとのマリアの火葬にかかった時間は約1時間。
火葬の後、玄関前のカーポートにとめたセレモニーカーの後部で、業者さんが炉のプレートに残された骨を丁寧に一つ一つ木箸で摘み、金属製の平らな容器に白い布を敷いた上に、体型そのものにきれいに並べてくださった。
大寒波が近づく冷え冷えとした夜のこと。「どうぞ中で」とか「アバウトで大丈夫です」とお伝えしたけれど、やわらかく「はい、ありがとうございます」と答えながら、彼は最後まで黙々と作業を遂行してくださって、それはそれはきちんと整えられた骨だけのマリアと私たち家族は対面することになった。

リビングの中央に置いたローテーブルの上でそれを見ると、感動的に美しかった。これが前脚の骨、足先の指の骨、これが半月板、これが尻尾の骨…と一つ一つ示していただきながら、ちょこちょこと歩く姿や、パタパタする尻尾を思い出したりした。ああ、なんと愛らしい骨だこと、なんと精巧にできた骨組みだったことか。
それから私と姉で代わる代わる、木箸で数ミリの小さな小さな骨まで白い骨壷に入れていった。最後に頭骨を収めると、業者さんが骨壷をきれいな布袋に入れ、頭骨の正面に合わせて名前と日付の書かれた札を下げてくださった。骨壷を正面に置けば、手を合わせるときにマリアと対面できるわけだ。

思わず最後に、ほぉっ、とため息がもれた。マリアは、もう戻らない。でも、ここにお骨がある。
「旅立っていったのだな」という思いが腹に収まった気がした。
私がお頼みした訪問火葬業者さんは、まるで「送り人」のようでした。

火葬されるまでのほぼ2日、遺体は、いつもマリアのゲージを置いてあった場所、つまり私の寝室の扉脇に、杉の木箱の上に安置していた。
ふだんゲージにかけてあった二重ガーゼのミニ・ケットでくるんだマリアは、生前よくそうして眠っていたように半開きの目をしていて、寝息で体が上下しないのが不自然に思えるほどマリアそのものだった。手のひらで撫でるたびに動き出さないのが不思議すぎて、水を凍らせたペットボトルと保冷剤を添えられた体の冷たさに生気はないのだけれど、それでも、目を覚ますのではないかと何度も何度も撫でてしまうのだった。具合が悪かった一時期ボソボソになっていた毛が、不思議なことにかつて元気だったときのようにツヤよくスベスベで最高に気持ちよくなっていたので、いっそ、剥製にしてしまいたいと思いそうにすらなった。
生きているマリアに会いたいのに会えなくて、何もする気が起きてこなかった。
マリアの死を受け止めきれない、そんな2日だった。
だから火葬して「旅立っていったのだな」という思いが腹に収まって、やっと現実に追いつけた気がした。

訪問火葬をお願いして、ほんとうによかったと思う。

*  *  *

訪問火葬という方法があると知ったのは、ずいぶん前のことだ。
当時住んでいた三鷹市牟礼で、近所の畑の向こう側の住宅地をマリアと散歩していてたまたま挨拶を交わした高齢の女性が教えてくれたのだった。「私も小さな犬を飼っていたのよ。1ヶ月ほど前に亡くなって、娘が検索して見つけた訪問火葬さんを頼んでくれて。埼玉の業者さん、よかったわよ」と。

それはマリアを家に迎えて数年目の頃だったと思う。当時はマリアが永眠するときがくるなんて想像すらしていなかったけれど、この1~2年、そのときの記憶がときどき蘇り、「もう年だもの、考えおかなくちゃ」と思っていた。
そして半年前くらいだったか、川越の訪問火葬の業者さんのチラシが郵便受けに入っていた。やわらかなトーンのイラストでペットが亡くなったときの対処法も描かれていて、文面にも好感が持てたので保管してあった。いつも散歩する遊歩道の電信柱の根元のあたり、ちょうど犬が用を足すときに目に入る位置に小さなモノクロのビラを貼ってある業者さんもあるのだけれど、頼むなら、郵便受けに入っていたチラシの業者さんだと私は無意識のうちに決めていたようだ。マリアが永眠した朝、迷うことなく保管してあったチラシを取り出してkiraribbonさんに電話をしたのだった。

今は、多くの飼い主さんが訪問火葬でペットを見送る時代になっているようだけれど、私がかつて偶然挨拶を交わした女性から教えてもらったように、このブログが誰かの脳裏に残ってお役に立てばいいなと思って書きました。

マリアのにおいには、なんとなくスパイシーなトーンの香りがあって、ちょうど年末にお友達からいただいて部屋に置いたままになっていた柚子の香りとどこか似ていることに、遺体を安置していた2日のあいだに気付きました。毎年、柚子の季節になったら、マリアのことをしみじみ思い出すだろうな