どうする、私の4色ボールペン? 郊外生活の悩み

気になること

最近、悩んでいる。
4色ボールペンについて、悩んでいる。
黒、赤、青、緑の4色が1本になっているボールペンのことが、悩ましいのである。

発端は、近隣の2軒の文房具屋の閉店だった。
一番近かったのは、自宅から徒歩15分ほどにある商業施設内のTSUTAYA。次に近かったのは、自転車で15分ほどの最寄り駅の新所沢の向こう側にあるPARCO内の文房具屋だった。その2軒が次々と閉店してしまったのだ。こまったこまった、本当にこまった。

インクが切れると、新しい芯に替えなければならない。だから予備として4色の替芯を少なくとも1本ずつは買い置きし、予備を使ったタイミングで買い物ついでに買い足していたのだが、その「買い物ついでに」ができなくなってしまったのだ。ほんと、こまったもんだ。

4色あると、減るスピードがそれぞれに異なる。色によって使う頻度に差があるからだ。一番早く減るのは、たいてい黒。次いで赤、特に原稿の校正なんかをしているときはスピーディに減る。青と緑は、たぶん同じくらいだと思う。
だけど、インクの減り具合と芯を替えるタイミングは正確に予測ができない。というか、今こうして振り返ってみると実際に予測したことがなかったことに思い至る。いつも行き当たりばったりだったのだ、私と4色の関係は。だいたい物が物だし値段も1本70円弱でしかないので、自家用車のガソリンの燃費のように計算したことなどなく(というか車を持っていない私はそれもやったことがないんだけど)、そもそも4色のインクの減り具合の計算などしている暇があったら私はぐうたらと寝ていたいというのが正直なところだ。

そこで、最寄りの2つの文房具屋がなくなってしまうと知ったとき、この際多めに、黒と赤は4本ずつ、青と緑は2本ずつ買っておいた。

ところが、想定外の事件が起きた。
いつものようにボールペンを右手に持ち、何を書いていたのか今となっては忘れてしまったけれど、普段通りノートに何かを書きつけていたときのことだった。とりわけ特別な思いが溢れていつも以上に指に情熱がこもり筆圧が上がったというような成り行きでは全くなかった。なのに突然、パキッという小さな衝撃を右手中指と人差し指に感じたとたんに筆先がズルッと滑った。なんだなんだ、何が起きたんだ? 
まさかまさかと悪い予感に導かれて見てみると、あらま、柔らかな感触のグリップ部分から胴体を抜き取ると(普通は抜き取ることができないが、折れると抜ける)、そのグリップ部分のちょうどまん中あたりで折れていた。こんなことは、私のボールペン人生で初めての出来事だ。しかも、替芯を多めに買ってストックたっぷりのタイミングでこんなことになるなんて。驚きというより、ショッキング。

そのときすでに近隣の文房具屋は2軒とも閉店してしまっていて、黒・赤4本ずつと青・緑2本ずつの替芯を横目に、ただただ呆然。期待される用途に応えてくれる機能を備えた4色ボールペン本体がなければ、それらは使えない。芯のみを握って書くことなんて無理無理無理だし。

かれこれ10年以上になるだろうか、私は4色ボールペンを愛用し、4色を使い分けながらダイヤリーに1日の行動を記録している。①家事や私用、②仕事、③社会貢献活動、④お楽しみ……それらを色分けしてバーチカルタイプのダイアリーに書き留めておく。
そうすると、自分の1日の活動配分が、そして1週間、1ヶ月、1年のそれが色分けされて、ダイアリーをめくるだけで一目で見て取れる。「よく働いたなぁ」「お楽しみが盛りだくさんだったなぁ」「ちょっと休養が足りないかな」などと、眺めればおおよその振り返りができてしまう仕組みだ。
4色ボールペンがないと記録も振り返りもできなくて、こまってしまう。

三年前まで私が住んでいたのは多摩地区の三鷹市で、自転車15分圏内に吉祥寺があった。吉祥寺といえば、駅ビルには丸善があり、駅向こうにはロフトもあったし、しゃれた文房具店もよりどりみどりの街である。しかし今住んでいるのは、郊外の埼玉県の所沢。しかも自宅の最寄り駅は、ロフトのある所沢駅ではなく新所沢駅(そこまで4kmちょっとの遠さ)。500円弱の4色ボールペンの購入を目的に、片道30分以上かけて所沢駅の駅ビルまで足を伸ばせるかどうかといえば、M社の同じ製品が置いてあるかが不確実なうえに、すぐに行けるかといえば予定があって微妙に身動きが取れなかった。

今日日、ネット通販という便利なものがある。ほんの小さな物でもポチッと注文すれば自宅まで届けてくれる。物は小さくてもやたら大きな箱や厚紙に梱包されて送られてくるので、環境配慮からすると気が進まないが、この際、致し方あるまい。「まさかないだろうな」と思いながら検索してみた大手家電量販店の通販サイトで、愛用していたのと全く同じ4色ボールペンが1本でも買えることが分かった。しかも、貯まったポイントで支払いができてしまうではないか。家電量販店、おそるべし。注文したところ、ボールペンよりはるかに大きいB5サイズの厚紙梱包に入れられたそれが、翌日届いた。

というわけで、今回は一件落着。
だけど、次に替芯がなくなるタイミングはいつだろう?とか、替芯は何色が何本になったところで注文すべきか?とか、また替芯を買ったときにポキッと折れたらM社の同じ4色ボールペンはもう二度と買いたくなくなるだろうけど替芯がある限り私は買ってしまうんだろうなぁ……なんてことを想像しながら、また悩ましくなる。

郊外は、街よりも人口密度が低くて住みやすくはある。
でも、お店密度が低くて不便であることも否めない。ましてや文房具屋さん、おいしいパン屋さん、おもしろい本屋さんetc.となると、半径4km圏内を見渡すと街との差は歴然だ。
これから少子高齢化が進むにつれて、地域の構成や流通のあり方はどのように変わっていくのだろうか。そして一歩一歩高齢期に近づいていく私は、必需品との関わりをどう調整していくのだろうか。
悩みはボールペンに留まらず広がっていくのだが、こうしてクダクダ考えるのが、実は好き。