栄養バランスのよい配食サービスが、高齢父母の食生活を豊かにしてくれています

日々の楽しみ

かねてから、私たち姉妹は父母に配食サービスを勧めていた。
美味しそうな配食サービスを妹が探してくれて、お試しもしてみた。
でも、父母は頑として拒絶していた。

「その日その日に食べたいものを選んで食べたい」

その気持ちは、わからないではない。
だけど8年前に脳梗塞を患って以来、母は半身不随で利き手が使えず、この数年は台所に立つのも難儀するようになった。父は、もともとほとんど料理をしない。「食べたいものを選ぶ」と言っても、そもそも選択肢が限定されている。
ヘルパーさんが来てくれる日は、スーパーでカキフライや酢豚などの惣菜を買ってきてもらい、ほかの日は生協の宅配で頼んだ冷凍食品や惣菜を活用する、昼食は父がコンビニで調達してくる・・・そんな、栄養や塩分のバランスに不安を感じる食生活がしばらく続いていた。

毎日の食事についての愚痴を母から聞き取るのは主に姉で、母のアイディアが枯渇しているときは、「アレを作ったら?」「コレにしてみたら?」と、負担なく料理できそうなメニューや、父に手伝ってもらえばなんとか作れそうな一品を提案することもしばしばで、脇で聞いていて感心していた。
私にはめんどくさすぎて、毎日変わり映えのしない献立を傾聴するのも提案するのもできず、上の空で聞き流すのが関の山だった。

父母の近所に住む妹は、折につけ、肉じゃが、手作り餃子、お刺身、果物やお菓子など、特別感のある食べ物を届けてくれていた。「こんなものを食べた」「すごく美味しかった」という母の声が華やぎ、妹の心づかいに私も嬉しくなった。

ところが、8月初旬に母が熱中症で入院してしまった。
父は家事がほとんどできないうえに認知機能がしばしば頼りなくなるので、8月中旬に私は札幌に飛んで9月中旬まで父をサポートしたのだが、母の不在が長引きそうな現実を前に、配食サービスなしに父の生活は成り立たないと判断するに至った。

しかし、この期に及んで父は「自分でどうにかする」と言い張った。「スーパーで惣菜を買えるし、コンビニでおにぎりや焼き鳥も買える」と。
いやいや、そのスーパーまで歩くのにヨタヨタしちゃうのは誰さ? 昼も夜もコンビニのおにぎりや弁当を食べていたら栄養バランスは、塩分の取りすぎは、どうなるのさ? そもそも糖尿気味でしょ? そんな食生活を続けてごらん、一挙に血糖値が上昇するんじゃないかい?

というわけで、ひとまず「お試し」で配食を頼んでみよう、と断固強行した。
ケアマネさんからリストをもらったり、インターネットで検索したりしてみたものの、その時すでに私の滞在期間は半ばを過ぎてタイムリミットが迫り、いくつもお試ししている暇はなかった。

そんなタイミングで、いつも母が注文していた生協のカタログを片付けていたら、「コープの配食クルリン」の紹介が目に付いた。

「管理栄養士が監修した献立」と書かれている。写真を見ると栄養バランスが良さそうだし、塩分量も表示してある。
しかも、お届けスタッフは「普通救命講習」を受けていて「認知症サポーター」でもあるという。安否確認もしてくれるというのだから、しばらく一人暮らしになる父には安心だ。

しかも、少食な人向けの「梅ライト」、栄養バランス重視の「竹バランス」、食べ応え満点で贅沢な「松デラックス」の3タイプがあり、「梅」と「竹」は毎日メインのおかず2つから好きなものが選べる。

90歳になって食が細くなってきているので「松」は食べ切れなさそうなので、お試しでは「梅」と「竹」をひとつずつ頼んでみた。
それが、こちら。

ある日の「竹バランス」
ある日の「梅ライト」
ご飯は別に頼める

正直、私はそれほど期待せずに食べてみたのだが、意外なことに、とても満足した。
主菜も副菜も、食材と味付けのかぶりがなくて味わいが豊かに感じられ、全体のバランスが良かった。これなら飽きずに毎日食べられるだろうと思った。

父に感想を聞くと、「まあまあだな。それほど美味しくはない。まあ、家のご飯みたいだな」とのたまう。

「はぁ? それほど美味しくない家のご飯」だって?
それまでの滞在中日々の食事を支度してきた私は、にわかに自分の料理が「それほど美味しくない」と指摘されたように感じてムッとしたが、いま、喧嘩をふっかけたら話が複雑になるだけだ。グッと不満を飲み込んで、別の言葉を吐き出した。

「家のご飯みたいに感じたなら良かったわね。高級レストランみたいな食事だったら、さすがに毎日は食べれられないものね」

・・・というわけで、ほぼ強制的に決定。
量は充分だと言うので、「梅ライト」にすることにした。

実は、先行して大手コンビニの配食弁当も試してみたのだが、安定供給安定価格だからかニンジンが主菜と副菜にかぶって使われていたのがなんとなく残念だったのと、味がやや濃いめに感じられたこともあり、さらに、何といっても「安否確認付き」が大きな決め手となっての選択となった。

普通のコンビニ弁当より野菜は多めだったけど。。。

こうして9月後半以降、毎週1回クルリンに電話をして、翌週の夕食の献立を選んで注文するのが私の担当になった。
11月初旬に母が自宅に戻ってからは、2人分を注文している。

配食サービスを強硬に拒否してきた母なので、「口に合わなかったらどうしよう?」と姉妹で心配していたのだが、蓋を開けてみれば「味もいいし、いろんなものが食べられていいわ」と至って満足な様子だ。しかも、以前よりも快腸らしい。
1ヶ月が過ぎたけれど飽きていないようだし、いやいや良かった、ほんと、良かった。

一人暮らしのあいだは「水っぽかった」「味が薄かった」などと不満をもらすことが多かった父だが、いまは「うまい、うまい」と食べていると母から聞く。
一人では味気なかった食事も、二人なら美味しい。これまた、良かったではないか。

離れ離れで過ごした3ヶ月を経て、二人の生活は元に戻ったようでいて、その実、配食、デイケア、在宅看護、薬局の在宅訪問など、以前は利用していなかったいろいろな介護サービスに支えられた新生活が始まっている。
新たな歯車が噛み合い、順調に回りはじめているみたい。
ありがたいことだ。