父との会話を決裂させないコツが分かってきたかも

日々の楽しみ

母が8月7日に熱中症で入院してしまい、予定をやりくりして8月15日に札幌にやって来た。目的のひとつは、突然一人暮らしになってしまった父の生活をサポートすることである。

それから2週間余、父と二人でご飯を食べたり散歩したりデイケアのお試しに行ったりして日々を過ごしてきた。

もうすぐ90歳のお誕生日を迎える父の生活リズムはいたってゆっくりで、動作もゆっくり、歩くのもゆっくり、新聞を読んではちょこっと眠り、ご飯を食べてはちょこっと眠り、散歩から帰ってはちょこっと眠り・・・そんな感じだ。
それに合わせて、私も普段よりゆったりペースの日々である。ゆったりペースだと時間の感覚がずいぶん変わるもので、こちらに来てもう1ヶ月経ったような気がするが、まだ2週間ちょっとだ。普段なら、「あらもう2週間も経っちゃったのね」と感じることの方が多いのだが。

これまでは父母の家に来ると、母のテレビの音で早朝に起こされたり、洗濯物の干し方をああだこうだと母に指図されたりでイライラしがちだったが、今回は母が不在。思いのほか、のんびりできている。
かつては、抑圧的な言動に苛立たせられることが少なくなかった父だが、年をとって角が取れて穏やかになり(それは私にも共通するのだろうが笑)、一緒に暮らしていて嫌になることがないのが意外なサプライズである。

とはいえ、今回こちらに来てから何度か会話が決裂してしまったことがあった。互いに声を荒らげ、2度は私が泣いた。

そのうちの1度は、私が連れてきている愛犬マリアのことを「老いぼれ犬のなりそこない!」と父が怒鳴ったときだ。
と今こうして書くと、「50歳半ば過ぎた私がそんなことでなぜ泣くか?」とバカバカしすぎて笑ってしまう。お前の母ちゃん出臍レベルの悪態でしかない。でも、それはきつい言葉の応酬の果てのことだったのだ。

もう1度は、「いちいち契約書にハンコを押さないと親の面倒は見られないというなら、縁を切るしかないだろう」などと父が、これまた激しい口調で言うものだから、こちらも「誰もそんなこと言ってないでしょ!?」とブチ切れて涙がこぼれたのだった。

互いに声を荒らげて会話が決裂するのは、けっして楽しいことではない。心がすさむし、あとで体もグッタリ疲れる。
だから、できればそんな局面はつくりたくはない。なのに、なぜか、言い合いになってしまったのである。

どうして、そんな流れになってしまったのだろう?と落ち着いて思い返してみると、同じようなパターンがあることに気づいた。
いずれも、
1.食後のテーブルでの会話だった
2.話題が病院、介護施設、ヘルパーさんなどの制度についてだった
3.2に関して父の判断を求めた
という共通点である。

90歳を間近に、父は以前より物忘れが多くなり、とりわけ直近に起きたことや話したことが思い出せないことが多々ある。
そんな父にとっては、国民健康保険と介護保険の制度と施設の違いやサービスの内容と、自分たちが今置かれている立場で何を選ぶことができるかを整理して考えることは、かなりハードルの高いことなのだろう。
なのに、私は「さあ、ご飯も食べたし、大切なこと話しておかなきゃ」と突っ走り、早口でパキパキと説明して、「ほら、わかったでしょ」的に詰め寄り、「で、どうする?」と追い打ちをかけてしまったのだろう。

それで父は混乱し、プライドから「わからない」とは言えず、かつての抑圧的な性向が首をもたげてきつい言葉を怒鳴ってしまう・・・おそらく、そんな心理と反応だったのではないだろうか。

しかも、耳の聞こえも若干悪いから、私は普段より大きめな声で話すようにしていて、自分でも不思議なのだが、声を張り上げているとなぜか怒りっぽくなってしまうみたいで、ちょっとした行き違いで話がもつれると、すぐにこちらもブチ切れてしまう。やれやれ、修行が足りません。

というわけで、おそらく会話を決裂させないためには、話すタイミング、内容、説明の仕方など、いろんな要素に配慮すべきなのである。
って、まあ、それは常識の範疇とも言えますけどね。笑

国民健康保険と介護保険の制度と施設の違いについては、紙に図を描いて解説した結果、なんとか父も理解できたみたいだ。言葉のみならず視覚的な解説を加えたり、具体的な例や比喩を使ったりして噛み砕いて説明することも、父には有効なようである。

いずれにしても、説明して理解させようと躍起になる前に、私たち姉妹が、父母の暮らしが安全・安心で快適であり、できるだけ二人が長く一緒に暮らせることを第一に考えていると、常にじんわりと伝えるのが実は何より大切なんだなぁと、心に手を当ててしみじみ思う今日このごろです。

そんなわけで、この数日は夕食後は難しい話をするのはとりあえずやめて、YouTubeで父の好きな「琵琶湖周航の歌」とか「紅萌ゆる」を流し、上手い上手いとはやして歌わせることにしている。

昨晩、夕食後に「琵琶湖周航の歌」をまた流すと、「おい、なんでオレの好きな曲がそこ(→私のiPhone)から出てくるんだ?」と父。
数日前にリクエストしたことを覚えてないみたいだ。

そこで私は言った。
「あなたの娘は、魔法使いなんだよ」

父はニヤリと笑って、歌いだした。