母が8月7日に熱中症で入院し、私は8月15日に札幌にやって来た。
それから2週間、ある意味ディープな毎日を過ごしている。
父と一緒にご飯を食べたり散歩したり押入れを片付けたりしながら、入院している母の状況を探りつつケアマネさんと連絡を取って今後の母の介護プランを立てたりヘルパーさんの日程を調整したり父のデイケアの「お試し」に付き添ったり・・・と、ただそれだけのことなのだが、いろいろ混迷したりモヤモヤすることが多々起きてくる。
入院や介護というのは、そもそも心のモヤモヤや不安を伴うものではあるけれど、今般の新型コロナウイルス感染予防が物事を複雑化させ、モヤモヤも不安も倍増あるいは3倍増くらいにしているように感じる。
何よりまず、母が入院している病院が感染予防のために面会謝絶だという現実が、モヤモヤと不安を大きくさせている。せっかく遠方から駆けつけても母の様子を見に行くことも医師の説明を聞きに行くこともできない私がもどかしいだけでなく、高齢になって状況の理解がイマイチぼんやりしてしまう父は病院に対して大きな不信感すら抱いてしまっている。
なんとも、歯がゆいこと限りない。
とりわけ、当初は母と直接コンタクトが取れなかったことが、家族みんなを不安にした。
妹が電話で医師や看護師や理学療法士と一度ずつ話せただけで、私もこちらに来た翌日に看護師と電話で話せたとはいえ、それとなく「何かあればこちらから連絡します」と言われてしまうと、しばしば問い合わせるのは憚られる。気になってはいても、「連絡がないってことは、大丈夫ってことなんだろうな」とグッと我慢してしまうことになる。なのに、横から父が「今日はどうなんだ?」と何度も何度も聞いてきて、「今日は電話してないよ」と繰り返しているうちに何度ブチ切れそうになったことか。
こういう状況って、みんなにストレスが溜まっていく。
入院10日目にして、私はケアマネさんを通じて病院の「相談員」という存在を知った。以後、相談員さんを通じて母の様子を聞けるようになり、相談員さんに携帯電話を送って母に渡してもらって直接話せるようにもなり、退院に向けての準備を少しずつ進められるようになった。
やれやれ。はじめから相談員さんと繋がれていれば、モヤモヤが少し軽くなっていたかもしれないのに、と思う。とはいえ本人に会って顔色や動作を見ることができないと、状況の判断がしづらく、今後の予測も立てづらい。「実際に会う」ということがこれほど意味のあることだとは、会えなくなって初めて実感できるものである。
80歳という年齢で、母の回復には思いのほか時間がかかっている。
40度を超えていた高熱は、入院翌日の夜には36度台まで下がったものの、その後、口内炎がひどくなり、起き上がれなかった数日にあてがわれたオムツのかぶれも日に日に悪化したようだった。
それでも、平日は20分のリハビリを毎日の日課にし、おかずをミキサーにかけた流動食とおかゆを食べ、ベッド脇の簡易トイレが使えるようになり、少しずつ回復してきた様子が携帯電話の声の張りからも感じられるようになってきた。
でも、回復しつつあるとはいっても、立ち上がりにも歩行にも困難を伴う状態で家に戻るのはリスクが大きいとケアマネさんは言う。ましてや、母は8年前に患った脳梗塞の後遺症で右半身が不随なのだ。
ケアマネさんのアドバイスによると、このようなケースでは、老人保健施設(通称:老健)でリハビリをして、体の機能と体力を回復させてから家に戻るのが賢明だという。
病院の相談員さんも同じ考えだったので、「できるだけ家の近くの施設で」という母の希望に沿って2つの老人保健施設を候補にあげていただいた。
そして先週の木曜と金曜に私は2つの老人保健施設を訪問し、説明を受けてきた。いずれも感染予防のために部屋の見学はできなかったが、それぞれの特徴は把握でき、家族とも相談して、そのうちの1つでの入所手続きを進めることに決めた。
選定の理由は、家から徒歩10分ほどの距離にあり、昔は散歩で通りかかることも多かったので親しみがあると母が言っていたこともあるが、何よりの決めては、自宅に戻れるようにするためのサポートが充実していたことと、7日に1回、家族2名との面会が可能であることだった。アクリル板を設置した面会室で10分ほどと限られてはいるが、これまでの会えないもどかしさからすると希望の光がピカピカだ。
ここに到るまで、母の入院から3週間。
あと1週間ほどで老人保健施設に移動できそうな流れになった。
フーッ。なかなか時間がかかるものである。
この調子だと、母が家に戻れるまで、あと2〜3ヶ月ほどかかりそうな予感がする。
私は9月中旬には帰らなくてはならないので、父の生活が安全・安心で快適なものになるよう、姉妹やケアマネさんと相談しつつ態勢を整えているところだ。
困ったことに、新型コロナウイルス感染予防のために関東圏から家族が訪れた家には1週間ヘルパーさんが来れなくなったり、父がデイケアに通えなくなったりするなどの制約がある。私と同じく関東圏に住む姉と下手にバトンタッチしてしまったら、ヘルパーさんもデイケアもない空白期間ができてしまう。そしたら、家事能力が限りなくゼロに近い父は、近所に住む妹だけを頼ることになってしまう。それは避けなければならない。
家族が総倒れになることなく、互いの力をほどよく出し合って父母をサポートしていくにはどうしたらいいのか、みんなで探っていきたいと思う。
新型コロナウイルスの出現前と比べると、何事もまず感染予防を踏まえて計画を立てたり行動したりしなくてはならない。その負担がずっしりと大きく感じられる。
個人レベルでもそうなのだから、病院や介護施設などの負担は想像を超える。
「新しい生活様式」などというサラッとした表現からは見えてこない、重くモヤモヤした無数の行動変容を私たちは強いられていることを実感する。と同時に、ケアマネさんをはじめ病院や介護施設の担当者さんの丁寧な対応に触れるにつけ、多くの人たちがそれぞれの立場で日々知恵を出し合い、より賢明なあり方を模索していることもひしひしと感じる。ありがたいことだと思う。