発見いっぱい原田病日記|その13|ショッキングだった退院後の尿漏れ事件をあえて思い出す

原田病日記

原田病を発症し、2週間入院して大量のステロイドを点滴で注入するパルス治療を受けたのは、もう4年半以上前のことになる。

退院したとき、私はずいぶん弱っていて、歩くのもよろよろしていたし、すぐ疲れていたし、しゃべるのも動作するのもゆっくりしかできなかったっし、瓶の蓋を開けるのすら力が入らず苦労するほどだった。
病気のせいなのか、ステロイド治療の影響なのか、2週間の入院生活中ほとんど寝ていたからか、あるいは、それを全部合わせた結果なのかわからないが、ともかく私のこれまでの人生で一番虚弱な状態だった。

そして今、当時を振り返ってもっともショッキングだったこととして思い出すのは、尿漏れ事件だ。
退院した翌日だったかその次の日だったか定かではないが、ベッドから立ち上がったとたん、ツーッと脚を伝って流れ出るものを感じた。
何だ何だ、これは? 何が起こったのか一瞬わからなかった。

まさか、そんな。

でも、思い当たることがあった。
退院時に入院費を支払いにいった入院患者専用カウンターで、順番を待って座っていたときに、待合室に置かれていたテレビに「これから入院する患者さまへ」というビデオが流れていて、それが「ベッドの上でできる筋トレ」の紹介だったのだ。
仰向けに寝て、膝を立てた姿勢から、肩から頭は床につけたままで腰を上にゆっくりと上げて、ゆっくりと下げるという簡単な体操は、まさにアレ、骨盤底筋を鍛えて尿漏れを防ぐために効果が知られているアレだったのだ。

つまり病院は、入院する患者さんに「これをやったほうがいいよ」と伝えているわけである。しかし私はそのとき退院するタイミングで、「入院前に知ってたらやったのに」とちょっとムッとしながら見たのだった。
入院中は、大量のステロイドを点滴する1時間半程度のあいだは動けなかったが、それ以外、私の身は自由だったのだ。やろうと思えば、できた。知っていれば確実にやった。でも、骨盤底筋を鍛えておくべきだとは、自分では考えが及ばなかったのだ。

だから、ベットから立ち上がってツーッと流れ出るものを感じた次の瞬間、私の骨盤底筋はそこまで弱ってしまっていたのか、と思い至ったのだった。ああ、なんてこった。

なぜ私が入院前にそのビデオを見そびれたかというと、原田病日記|その1に書いたように、年末年始の休みに入ったその日に入院したからだ。
普通なら入院時に前払いの10万円を入院患者専用カウンターで支払うことになっているのだが、休暇に入ってカウンターが閉まっていたから担当者さんが病室に来てくれて手続きを済ませたのだった。

こんなことになるのなら、ビデオも病室で見せてくれればよかったのに。せめて、パンフレットを渡すとか口頭で教えるとかしてくればよかったのに。
そんなそんなぁ!と地団駄踏んでも後の祭りなのでありました。

あまりにショッキングだったので、それから件の体操を一所懸命やったと記憶している。当時毎日付けていた「健康チェックノート」を見ると、退院後3日目のページに「骨盤底筋トレーニングちょいちょいやる」と書いてある。
でも、書いてあるのは、なぜかそれだけ。
肝心の尿漏れ事件がいつだったのか、そして筋トレの成果がどのくらいで表れたかについてはどこにも書かれていない。たぶん、あまりのショックに、無意識のうちに「なかったこと」にしてしまいたかったのだろう。

そんな自分でも「なかったこと」にしたかった尿漏れ事件を、4年半たった今、わざわざブログで公にしたのには2つの訳がある。

ひとつは、恥ずかしがらずに書けば、どなたかのためになるかもしれないと思ったから。
これを読んでくださった方が万が一入院するようなことになったとき、私の二の舞にならないように予防できるかもしれないじゃないですか。そんな風に役立ったらいいなと思ったのだ。

もうひとつは、自分のため。これからの日々、筋トレのモチベーションをしっかり継続して持ちつづけたいからだ。
というのも、発症当時私は51歳で、週に1回は合気道の稽古に通っていたし、無垢床を敷くという現場仕事もときどきやっていて板を持ち上げたり電ノコを使ったりしていたから、そこそこ筋力には自信があった。それなのにたった2週間の入院であそこまで筋肉が急激に衰えたのは、ステロイドの影響がかなり大きかったのだろうと振り返って思うのだ。実際、いつだったか診察時に筋力低下が激しいと話すと、医師は「ステロイドは筋肉にも影響しますからね」と答えたことも覚えている。

その後、めきめきと筋力が落ちていき、今となっては日常生活のちょっとしたシーンでも筋力不足を実感するほどになってしまったのだが、あのときから、骨盤底筋のみならず全身の筋力の衰えにもっと目を向けて対策を講じてきていたら、今、ここまで悩むことはなかったかもしれないと思うのだ。

そう思うにつけ、あえてショッキングな尿漏れ事件をここであらためて振り返り、「もう、あんな状態には戻らない!戻りたくない!」という意思を強く強く胸に刻みつけようと考えたのである。

全体的な筋力低下の過程については、あらためて振り返ることにするが、「ちょっとしんどいな」というときでも筋トレはやっとくべきだったのだなぁとしみじみ後悔している。
だから、「今日はちょっとサボっちゃおうよ」という心のささやきが響く日には、「ショッキングな尿漏れ事件を思い出せ!」と自らに発破をかけている。そして、そんな叱咤激励の言葉からは想像できないほどゆる〜い「筋リハ」を続けているという昨今、この一ヶ月なのです。