インド映画『ダンガル きっと、つよくなる』に大興奮。女子レスラーの戦いの裏には、深い深い意味があった

日々の楽しみ

週末、インド映画『ダンガル きっと、つよくなる』のDVDを観た。
インドの女子レスリング選手フォガトー姉妹とその父親の実話を元にしたサクセス・ストーリーである。

いやー、かっこよかった。スカっとした。
インド映画ばんざい! 

この映画は、2016年12月にインド本国で封切られて記録を塗り替える大ヒットとなり、2017年3月から中国や香港でも大ヒット。世界各国で多くの人たちを大興奮させたメガ級ヒット作だということを私は観たあとで知ったのだが、それもそうだろうと納得の、超絶な面白さだった。

ストーリーは、生活のためにレスリングをあきらめた元インド国内チャンピオンの男マハヴィルが、自身がかなえられなかったオリンピック金メダルの夢を娘たちに託して育てあげていくという、いわゆる「スポ根」である。しかし物語は、単なる「根性論」に支えられているのではない。

父と娘たちの行くてを阻むのは、男尊女卑の観念やジェンダー不平等の現実だ。そうした障壁を、父と娘たちがそれぞれに、ときに一緒に乗り越えていく。そして困難な現実に負けずに乗り越えていく鍵は、いつもマインドセットの転換にある。
「女にはできない」「女は家事ができればいい」「夢を追うのは男だ」……そんな無意識の思い込みに気づき、それをくつがえすことが、物語の展開の大きな原動力になっている。
この物語が私たちを感動させるのは、手に汗にぎるレスリングシーンとともに、そうした強烈なマインドセットの転換の正当さなのだと私は思う。

はじめ、マハヴィルは自分の夢を託せるのは「息子」だと思い込んでいた。
ところが、生まれてきた4人の子どもはすべて女の子。その現実を前に、一度は夢をあきらめたマハヴィルだったが、ある日、長女ギータと次女バビータが男の子たちをボコボコに叩きのめしたことを知る。悪口を言われて反撃したのだ。
アザだらけの男の子たちを目の当たりにして、「女子だって、できる!」とマハヴィルは確信する(セリフにはなかったが、演ずるアーミル・カーンの目が、そう語っていた)。マハヴィルのマインドセットが大きく転換したシーンである。
それをきっかけに、彼は娘たちの格闘DNAを信じて、猛特訓を始めるのである。

舞台は、北インドの片田舎の村。
娘たちに過酷なトレーニングを課し、レスリングを教えることになりふりかまわず夢中になる父親は、封建的な村人たちの嘲笑の的になる。
もちろん、娘たちも。
早朝のランニング、筋トレ、父親手づくりの土の練習場での特訓。父に反抗すれば、髪の毛をベリーショートに切られてしまう。ベジタリアンの家庭なのに鶏肉を食べさせられる。
通学の道で、村人たちは薄笑いしながら彼女たちを見る。

そんな強引で暴君な父親に嫌気がさし、悲観にくれる姉妹の心を変えたのは、14歳で見知らぬ男に嫁がされる少女の言葉だった。

「私は、あんな父親が欲しい。だって彼は娘のことを思ってる。
うちなんて、ひどいよ。女の子が生まれたら、料理と掃除を教え、家事を押しつけ、14歳になったら嫁に出される。厄介払いよ。会ったこともない男に引き渡されるの。子どもを産んで育てる、女はそれだけ。
お父さんは子ども思いだわ。村中に非難されても黙って耐えてる。それは、娘たちの未来のため。いい父親よ」

その言葉が、姉妹のマインドセットを大転換させる。
そして、姉妹の夢と父親の夢がひとつになるのである。

14歳で見知らぬ男に嫁がされる少女が、お父さんが姉妹の未来を考えていることを切々と語るシーン

そして最も感動的なマインドセットの転換は、オリンピックの決勝戦を明日に控える長女ギータと父親マハヴィルの会話にある。

アドバイスを求める娘に、父は言葉を選びながら言う。

「戦略は1つしかない。

 人々の心に残る試合をしろ。

 銀メダルだと、やがてお前は忘れられる。
 金メダルだと、人々に勇気を与え、子どもたちの希望として永遠に残る。
 何百万もの少女の勝利となる。
 男より低い地位にいる少女の勝利だ。
 今の少女たちには家事と子育てしかない。

 明日の試合は、とても重要だ。」

そしてマハヴィルは、こう続ける。

父マハヴィルは、最初からこんな風に考えてはいなかった。「女を下に見るすべての人間」と娘を戦わせようと思ってレスリングを教え込んだのではなかった。オリンピック金メダルという自分がかなえられなかった夢を、娘たちに託そうとしただけだったのだ、はじめは。
だけど、「レスリングは男子のするもの」「女子は髪の毛を長くするもの」「女子は家事をしてればいい」……といった既存のジェンダー観を自ら壊し、娘たちと新たな道を拓きながら、社会に根付く固定観念の強固なしがらみに葛藤しつつも負けずに突き進んできたからこそ、こんな結論に至ったのである。

……あのシーン、このシーンの言葉、そしてあの表情、この表情。逃さずにもう一度見直して、あらためてどきどきはらはら笑ったり泣いたりしたいと思うほど、味わい深い作品だ。音楽もすごくよかった。

マハヴィルを演じるのは、インドの「国宝級スター」と称される男優アーミル・カーン。半端ない目力で、ぐいぐいと物語を引っ張っていく存在感に圧倒されっぱなしだった。私などが言うまでもないが、すごい俳優だ。
この映画で若いマハヴィルと中年マハヴィルを演じるにあたって、体重70kg→97kg→70kgという肉体改造を実践したという役者魂にも驚愕させられる。
ほかの出演作も観てみたい。

幼少期・青年期のギータとバビータの姉妹を演じたのは、ともにレスリング経験がまったくない少女と女子だったというから驚きだ。4人とも、すごい。
私はこれまでレスリングに興味を持ったことが全くなく、試合を見たこともなかった。だから実際のオリンピック競技と技や力量にどれほどの差があるのか判断はできないが、練習のシーンも試合のシーンも実写で迫力にあふれ、手に汗をにぎって夢中になった。

まじ、かっこよかった。
スカッとした。
勢いで、ポニーテールができるくらいまでに伸ばしていた髪の毛を、ベリーショートにしてしまった。きっと、つよくなれる(笑)。

『ダンガル きっとつよくなる』公式サイト