91歳の父、デイケアで新しい趣味の世界を広げています

日々の楽しみ

8月21日に父を札幌から連れてきて、2ヶ月半余が過ぎた。
だいぶ疲れが溜まってきた感がある、姉も私も。

ボケている父が家にいると、仕事をするにも休むにも家事をするにもなかなか落ち着かないんですよ。
ふと見ると、気温の変化に合わせて服の調整ができずに鼻水を垂らしていたり、妙な姿勢でソファで寝こけていたり、玄関で物音がするので行ってみると夏のジャケットとズボンを着て昔の同僚に会いに出かけようとしていたり。油断も隙もない。

そしてまぁ、話の噛み合わないこと噛み合わないこと。これがほんと、疲れるの。
はじめのうちは笑えていたけれど、だんだんしんどくなってきた。
「Y(←父の弟)に話があるから札幌に行ってこなければと思っているんだ」
「札幌へは、飛行機より電車のほうがはやく行けるんだったな」
「電車の時刻表を買いたいが、本屋は近くにあるか」
……ホームシックで帰りたい気持ちがつのっているのは分かるのだが、的外れなことを繰り返したり、目がすわって険悪な色をたたえたりしていることもある。で、そうなると、まともに説明しても通じない。というか、説明や説得を試みれば試みるほど父は頑なになり苛立って、「それは人権の問題だぞ」と風呂敷を大きく広げて怒り出したりするので、むしろ、うまく気をそらすように話の方向を変えていかなければならない。

そんなこんなの対応が、めんどくさい。それが積もりに積もって、ズシンと重く感じられる今日この頃です。

そこで「文化の日」は、姉妹ともに仕事は休みでしたが、デイケアは通常運営だし、週に一度の絵画のアクティビティの日でもあったので、あえて父には祝日だとは言わないことにした。
朝、父が「今日は普通の日か?」と姉に尋ねたというから、薄々感付いていたのかもしれない。そうだよね、カレンダーの「3」が赤字だしね。
でも、なんといっても私たちに必要なのは、父不在の休養だ。
というわけで、にっこり手を振り、デイケアのお迎えの車に乗る父を見送った。

姉も私もどこかへ出かける気力はなく、ひたすら脱力。ふぅ〜。
そうはいっても私は、父が寝室にしている和室のDIYリフォーム計画を進めるべく、ふすま紙のネット通販サイトを調べたりはしたものの決断はつかず。疲れていると、判断力が鈍るのよね。

午後のひととき、「たっぷり昼寝しちゃった〜♪」とスッキリ顔の姉と一緒にハーブティーを飲みながら、「お腹は空いてないけど休日感を盛り上げよう!」とエンゼルパイを食べた。
それからほどなく、絵手紙スタイルで描いた柿の作品を手に、父が帰ってきた。

父が通っているデイケア施設では、アクティビティとして絵画と書道が毎週1回ずつあり、手芸が月1回ある。はじめは苦手だからと言って参加を拒んだ父だったが、やってみたら作品を褒められるのが嬉しいのか、一つのことに集中できる時間が心地よいのか、これまで継続できている。
作品は食堂の壁にまとめて展示してあって、新しい作品を持ち帰ると父は「これも貼っておいてくれ」と嬉々として私たちに渡してくる。そして食事をしながら眺めては、「なかなかうまく描けてるなぁ」「うまいもんだろ」と自慢する。まぁいいんだけど、毎度毎度なのでこちらはだいぶ食傷気味です。

10月末、2回目の手芸で作ってきたのは、かわいらしいクマちゃんだった。まさか父がこんな愛らしいマスコットを作ってくるとは。
誰にでもほどよく仕上がる材料選びや作り方が配慮されていて、担当者さんのセンスが光っている(が、常に自己中心的な父は、あくまで自分がうまく作れたことを自慢に思っているみたい)。

巻いてある毛糸をハサミでカットして球形にして、目鼻耳をボンドで付けたらしい。

ちょうど母の誕生日が間近だったので、姉がメッセージを添えて入院中の母に送ったところ大好評。
8月中旬に大腿骨を折って入院した母は、手術から1ヶ月後に専門病院に転院してリハビリに励んでいて、ベッドの上で寝返りをうったり平行棒につかまって歩いたりする練習を毎日続けている。でも、一人で起き上がることも立つこともまだできないようだ。
コロナ禍で札幌に住む妹もお見舞いに行けず、毎週日曜に電話で話すだけという状況が続いている。そんななか、父メイドのクマちゃんが母の心をホッコリと和ませ、「リハビリがんばろー♪」と気持ちを盛り上げてくれたようだ。

そして父は父で、電話越しに「お習字、上手に書けてるじゃないの」と母に褒められて鼻の下を伸ばしている。スマホで撮ってプリントした写真の裏に「お手本をなぞって書いてるみたいよ」とコメントを付けて送ったのだが、母は「なぞってもいいじゃない。上手よ〜」とベタ褒め。で、父はご機嫌。めでたしめでたし、です。
思いがけずデイケアで広げてもらった父の趣味が、離れ離れの父母の心をつないでくれている。ありがたいことだ。

先日、父がボソッと「へんなものにのめりこんだものだな」とつぶやいていて、どうやらそれはデイケアでのアクティビティのことらしい。娘の希望としては、父が不安や郷愁にかられてくだを巻く暇がないくらい、より一層のめりこんでもらいたい。