今日はついにジーコが蛹(さなぎ)になった。
喜ばしい。
2番目に蛹になったから、ジーコ。
次女でも、次男でもなく、次子で、ジーコ(笑)。
たぶんジーコはオスだと思うんだけど。
ジーコが蛹になって、とても嬉しいのには訳がある。
ふつう、蚕は糸を吐きながら繭をつくり、その中で蛹になる。
だけどジーコは、繭は作らせずに、平らな場所で糸を吐かせたのだ。
そんなことをさせて申し訳ないと思ったのだが、好奇心がそれを上回ってしまった。
「かえるよ!カイコ」(アトリエ モレリ/作・絵 久居 宣夫/監修 2002年リブリオ出版発行)という科学絵本に、「おかしの箱をラップで包み、カイコをのせると(中略)布をつくります。」と書いてあるのに気づいたのは、昨年夏のこと。
飼っていた13匹すべての蚕が繭をつくったあとのことだった。
で、今年こそ。
平らな絹布をつくらせてみたかったのだ。ごめんよ、ジーコ。
なんとなく丸っぽい絹布ができた。ありがとう、ジーコ。
ジーコが桑の葉を食べるのをやめて糸を吐き始めたのは、6月6日の朝8時頃だった。
急いで、手元にあった12cm四方の箱に、本に書いてあったとおりラップを貼り付けてジーコを載せてみた。
箱の大きさの目安は本に書いてなかったので、とりあえず家で見つけた箱を使った。
ジーコは、箱の上や縁を、探検するように動き回った。
なんとなく、ラップがつるつるして動きにくそうに見えた。私自身プラスチックの感触が好きではないので、見ていて気の毒になった。ごめんよ、ジーコ。
ジーコはときおり進むのをやめて、頭をあげてゆらゆら左右上下に揺らしていた。
そうやって空間を把握しようとしていたのだろう。きっと、繭をつくるのにぴったりの隅っこがないか探していたのだろう。ごめんよ、ジーコ。
君に快適な隅っこを与えなかったのは、私だ。トイレットペーパーの筒とか、適当な箱の中とかに入れてやれば、君は本能に突き動かされるままに美しい曲線を描く均整のとれた繭がつくれたというのに。
平らな箱の上に載せられたジーコは、何度か下に落ちてしまった。縁を通り越して、箱の側面を果敢に探索していて足を滑らせて転落したのである。ジーコは、垂直な壁面で体を長く支えているのは苦手なのだ。
落ちる度に、私はジーコをつまみあげて箱の上に載せた。箱とテーブルが接するところにできた隅っこで繭をつくってしまわないように。ごめんよ、ジーコ。
午後になると、ジーコは糸を吐き始めた。隅っこを見つけることは断念したのだろう。「糸を吐け」「糸を吐け」という本能に突き動かされて、ともかく糸を吐くに至ったのだろう。ごめんよ、ジーコ。
箱の四角い面の角から辺にかけて、ジーコは少しずつ、少しずつ、美しい光沢のある白い糸を吐いていった。それから真ん中あたりにも糸を重ねていった。
私が仕事をしているパソコンの横で、プチプチという微かな音をたてながら、日夜休まずジーコは絹布を織っていた。
そしてついに今日、6月10日昼過ぎ、この光沢のある絹布の一片を残して自らは蛹となった。
ジーコ、ありがとう。美しい仕事だ。感激だ。
お蚕さん日誌|今日のアルバム
6月6日朝8時頃、ラップを貼った箱にジーコを載せた。ジーコは、まず端っこを探索。
6月6日お昼過ぎ、ジーコが糸を吐き始める。まずは角や辺に近いところに。
(白い箱だったので糸が見づらいため、箱とラップの間に緑色の折り紙を入れた)
6月7日朝、まだらだが、布っぽくなってきた。
頭を上げて左右にふりながら、糸を吐くジーコ。
体が少しずつ短くなってきてる。糸を出すと、体は縮む。不思議だ。
6月8日、たゆまずプチプチと糸を絹布を織るジーコ。
ところによって厚みが違うが、その模様も含めてジーコの作品だ。