桜の花が散り、つつじがきれいに咲く季節になったある日のこと。
リビングのほうで何やらガタガタと音がしていると思ったら、91歳の父が「ともちゃん、密談スペースをつくったよ」と、私の書斎にやってきた。
なにそれ?密談?……笑える。
どれどれ。
見に行くと、庭と通りを眺められるリビング脇にソファが2つ並らべられていた。マガジンラックもカフェテーブルのように置かれていて、なかなかいい感じ。

たしかに、ちょっとした話をするには絶妙な座席配置かも。
正面で向き合うよりやや斜めに並らぶ方が、言いづらい交渉や微妙な駆け引きも、相手の気配をなんとなく察しつつ余白を残しながら進められそうな。
高度経済成長時代に猛烈サラリーマンだった父の言葉の端々に日頃出てくるのは、日本独特な企業文化の取引の機微やら部下への配慮やらリストラの厳しさやらなのだが、おそらく現役時代にはさまざまな「密談」で難事を切り抜けてきたんだろう。そのノウハウ?に自負もあり思い出も数多あるに違いない。私には正直、わからんけど。
夕方、帰宅した姉を「どうだ、いいだろ」と自慢げに招き入れ、楽しそうな雰囲気になってきた。また、私の借金の話とか私にゆすられた話とか密告するのかな。笑

ま、楽しそうだし、姉がビールなんかプシュッと開けたもんで、ちゃちゃっとおつまみを作って、「居酒屋ともちゃんのデリバリーでーす!」とお届け。
とかく不機嫌になりがちな91歳の父のことなので、なにはともあれご機嫌さんでいられるのはいいことだ。
というわけで、これから『居酒屋ともちゃん』のデリバリーが忙しくなりそうよ。

