残っていた現金や書類を焼却する、あるいは支店ごと火にかける、金塊を潜水艦で運搬する、はたまた入るだけの現金をリュックサックに入れて列車の屋根の上に這いつくばって運ぶ……そんなことが銀行員の「仕事」だった一時期があった。『太平洋戦争と銀行 なぜ日本は「無謀な戦争」ができたのか』(小野圭司 著/講談社現代新書 2025年11月発行)に描かれている、日本が植民地化していた満州、中国、朝鮮、台湾、フィリピン、樺太など各地の日系銀行で1945年8月15日の前後に実際に起きた出来事である。
戦争は不条理なことだらけだ。
著者は、「思えば、つくづく無謀な戦争だった。このように国力を大きく上回る規模の長期総力戦が、なぜ可能だったのか。答えの一つは、金融による『国力の水増し』に他ならない。」と「まえがき」に示して語り始める。
金融にも歴史にも詳しくない私には、正直、読みやすい本ではなかったけれど、これまで想像したこともなかった銀行員たちの戦時下の「仕事」に驚愕しつつ、イスラエルとアメリカが国際法を逸脱したイラクへの武装攻撃を2月28日に始めてから世界が日本がどうなっていくのか動揺が絶えない今、過去の戦争に学ばなければと自分に言い聞かせながら読み切った。
1872(明治5)年に「国立銀行条例」が公布され、日本で近代銀行業が始まった。そして1931(昭和6)年の満州事変を皮切りに1941(昭和16)年には太平洋戦争へと雪崩れ込み、戦争が長期化していくという抗いようのない展開に押されて、日本の銀行業もどんどん戦時動員されていく。
開戦当時のGDP比を見ると、日本が植民地化した朝鮮・台湾を算入したとしても米国は5.2倍、大英帝国は3.2倍もあった。GDPとは、国内で生み出される付加価値であり、国の「豊かさ」の指標だ。
「半年や一年であれば『今あるもの』で戦えばよい。軍事力の勝負だ。ところが二年や三年となると、『作りながら戦う』ことになる。戦いは経済力の勝負に変質する」。
もともと勝ち目のない戦争だったことは、数字を見れば明らかだ。結果、全ての国民は巻き込まれ、傷つき命を失い、豊かさも日々の暮らしも削られ、しなくてもよい「仕事」をさせられた。
「とにかく日本はがむしゃらに戦った。勝つためには、全てを犠牲にした。そして形あるものは、何もかも使い果たした。」
飛行機の材料のアルミを捻出するために、造幣局は10銭・5銭・1銭というアルミ貨を軽量化したり、錫(すず)貨にしたり、はたまた陶製やゴム製の硬貨すら考案してアルミを節約。それでも飛行機の生産が間に合わないどころか、飛ばす燃料も尽きていた。敗戦間際には、松の切り株から作る松根油に期待が寄せられるが、戦闘機を飛ばすほどの油が採れるはずもない。
「今から思うと滑稽であるが、当の本人たちは大まじめだった。」
そうこうするうちに、食料も生活用品も全てが欠乏状態になっていた。犠牲は全ての国民に強いられ、穏やかな暮らしや喜びは奪われた。
「このように『無いないづくし』の戦争末期にあって、形ないものが急速に膨らんでいた。日本自身と日本銀行や特殊銀行のバランスシートだ。」……臨時軍事費の支払金額と戦争関連の国債発行ばかりが増えていて、つまりは、とてつもない借金の山が積み重なっていたのである。
「日本は戦争で形あるものを使い果たした。しかし国破れてバランスシートが残った。それどころか、戦争が終わって軍が戦闘行動を停止しても、バランスシートは放っておくとブレーキが壊れた機関車のように暴走し増え続ける。銃声が止んでも、財政・金融を預かる者たちには『バランスシートの清算』という大仕事が待っていた。まして外地では、連合国軍による接収や職員・その家族の引き揚げという難題を抱えていた。」……そんな混乱の中、冒頭のような「仕事」が各地の銀行員に降りかかってきたのであった。そして混乱によって生じたバランスシートの歪みの辻褄合わせは、やはり国民があらゆる場面で引き受けさせられていたのである。いかなることだったかは、本書を読んで知ってほしい。
いやいや、なんてこった。そんな視点で敗戦と戦後を考えたこと、私はありませんでした。
戦時下でも、お金は流通していた。
そうだろうと誰でも思うだろう。
けど、どんなふうに?と具体的に想像してみたこと、ありますか。
なかったら、読んでみてください、この本を。
というか、高市首相および自民党議員のみなさんに、「この本を教科書にして勉強して」って私は強く言いたい。食料もエネルギーも輸入に頼り、しかも少子高齢化が急激に進む日本で、防衛装備移転3原則の「5類型」を撤廃とか言ってる場合じゃないことを、しっかり肝に銘じてほしい。
戦争反対。
戦争にお金を使うより、平和のために使おうよ。
銀行員のみなさんだって、現金をリュックサックに入れて列車の屋根の上に這いつくばって運ぶような生命を賭す「仕事」なんて二度としたくないに違いない。
「銀行は、ある意味でバランスシートの上に立つ形而上的な存在で、とにかくリスクを嫌う。銀行員にとってリスク回避はまさに金科玉条で、その最たるものが戦争だ」。銀行員の職を経て、現在は防衛省防衛主任研究官である著者が「あとがき」で明言している。
不条理きわまりない戦争。歴史に学び、止めなければ
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