猛暑が去って94歳の老父が活発化!? 【かけっこの巻】

日々の楽しみ

前回のブログに、気温が30℃を切ったら「もしや重力が半減したか?」と思うほど動けるようになり、片付けに精を出していると書いた。それに遅れること10日ほど、今度は94歳の父が、めっちゃ活発化してきて驚いている。

先週の火曜日には、こんなことがあった。
いつものように夕方4時半頃にデイサービスから戻った父をベッドに連れていって一休みさせ、仕事のメールに返信したくて私は2階の書斎に急いで戻った。ほどなく、階下の物音に嫌な予感がして下に降りていくと、ちょうど階段の真ん中の直角に曲がったところで、父の頭と出くわした。
とっさに「危ないから、2階に行くのはやめましょう。ふらふらしてて転ぶと困るもの」と言ったのだが、父は「いや、大丈夫だ」と強行姿勢を見せた。しかし私はどうしても父に2階に来て欲しくない。ふらふらしていて危ないのもあるけれど、父が私の部屋に入ってくるのがすごく嫌なのだ。認知症の父は、たまに私の部屋に来ることがあると、「ここはオレの家なんだぞ」と、トカゲのような小さくて疑い深い眼差しで私を睨みながら言うのである。ほんと、嫌。そうですよ、そうですよ、ここはあなたの家ですよ、私は出戻ってきて居候してますよ。おかげさまで、屋根の下で雨露しのいで、ぬくぬくと生きていられるんですよ、ありがたいことで。と言わせたいのかい?なんて思いながら、なんだか自尊心が傷つく。だから、父が2階にくるのは、ほんと、嫌なのだ。
そこで、「まあまあ、いったん降りて、お茶でも飲みましょう」と父をそっと押し戻しながら数段導き、廊下に着地させた。ところが父はなお抗った。「いや、オレは2階に行くんだ」と。そこで私はにわかに思いつきで提案した。
「じゃ、ここでトレーニングしてからね。ちゃんと体力つけないと危なっかしくて階段なんか上らせられないわ。ちょっと、走って見せてよ」。すると、意外なことに父は素直に「走ってやる」と言ったなりに廊下からリビングにかけて小走りして見せてくれるではないか。びっくりだ。

そうとくれば煽るしかない。「すごい!すごい!手すりに掴まらないで走れるじゃない!かっこいい!じゃあ、3往復ね!」と発破をかけると、たかだか4mくらいの短い廊下ではあるものの父はヨタヨタと3往復完走して、リビングのソファの前の床に倒れ込んだ。やんややんやと誉めたてると、もう父はご機嫌。かけっこのゴールテープを切ったような様子だ。もちろん、2階に行こうとしていたことなど忘れてしまった。
やったね、私、大成功。めでたし、めでたし。笑

それにしても、この活発化は驚きだった。何しろ、それまでの酷暑の日々、デイサービスから帰宅すると毎日、疲れきった様子で起きていられず、すぐにベッドに横になって眠ってしまうのが常だった。

目覚めている間は「辛い」「腰が痛い」「オレはもうダメだ」などと始終不調を訴え、帰宅後も日曜の終日も家にいるときはおおかた眠って過ごしていた。食欲もあまりなく、朝食も夕食もおかずは残しがちで、ご飯だけはお茶碗一杯分ほどはなんとか食べる、そんな感じだった。だから、「もうこのまま看取り期に入っていくのかな?」と私は半分覚悟していたのだ
しかもときどき、むっくりと起きあって「おい、K兄さんは、今日は帰ってくるのか?」とか「T兄さんが来るんだな?」などと聞いてくるので、「パパのお兄さんたちは、とうの昔に亡くなって、みんな天国よ」と答えると、「えーーーーっ???」とまるで初めて聞いたかのように驚く父を見ながら、もしかしたら、その横にKおじさんやTおじさんが父をお迎えに来てたりするのかしら?なんて想像すらしていた。

それが、こんなふうに廊下でかけっこ。すごい回復だ。食欲ももり返し、冬瓜とひき肉のとろみスープなどをズビズビと下品な音を立ててすすって、「うん、うまいな」とご機嫌になったりもする。夏の間は何を食べても「まあまあだな」、アイスクリームだけは「うまいな」だったのだから、体調の回復とともに味覚も戻ってきたのかもしれない。

ひとまずよかった。元気が出てくるのはいいことだ。10月27日の選挙の投票所にも連れて行けそうだ。
しかし、いくら回復しても2階には来て欲しくない。父ちゃん、ぜったい来るなよーっ!