編集すると、流れが変わる

仕事について

2023年2月、『NPO法人 所沢生活村』は50周年を迎えた。
故・白根節子さんを中心に1973年2月に『牛乳友の会』として発足して以来、現在に至るまで生産者と直接提携し、無農薬・無添加食材の共同購入活動を展開してきた団体だ。2012年にNPO法人になってからは、現在70歳になるくらいの女性3人が「事務局」となって運営してこられた。それ以前は、地域の主婦たちのボランティアの働きによって営まれてきたというのだから、時代と地域性が揃ってこそ可能だった奇跡的な活動なのだと思う。

私は2020年3月に会員になり、提携している生産者さんたちから届く有機栽培天日干しの玄米をはじめ、野菜セット、豆腐類、納豆、卵などを日常的にいただくようになった(入会した経緯はこちらに)。
拠点の「配分所」が所沢ニュータウンにあり、私の自宅から徒歩2分ほどの近さなので、当初からジャガイモや玉ねぎを計量したりブログを更新したりといったお手伝いを週2時間半ほどしていて、加えて2021年からは経理の入力も担当するようになり、理事も務めるようになった。

そんなふうに関わりがどんどん深まってきた理由が何かといえば、そこで手に入る食べものの味わいはもとより、事務局3人の魅力によるところが大きい。利益を最優先する商業主義に流されることなく、あるべき「食」の実践に並々ならぬ力を注ぐ彼女らの姿勢に共感すると同時に、生産者との提携運動が各地で消滅していく時代の流れにどうやって抗っていけるのか目が離せなくなった。というかここまでくると、もはや自分ごとである。

それで、「50周年を迎える節目に居合わせたのも何かのご縁」と思い、周年事業企画を提案したのが昨年2022年5月の総会前だった。賛同してくれた30〜50代の4人の理事と一緒に実行委員会を立ち上げ、約9ヶ月をかけて準備を進めた。ロゴの作成、記念誌の発行、そして「50周年のつどい」も開催できた。

私以外の実行委員は、遠くは沖縄、広島、逗子、東京の在住で、打ち合わせはいつもオンライン。細々した作業の確認はLINEのグループトークやメールを使い、議事録やデータはクラウドで共有した。先立つ一年間に月一回の理事会でやはりオンラインで顔を合わせていたとはいえ、それぞれのバックグラウンドも得意分野も互いに知らない5人だったのだが、同じ米や豆腐や野菜なんかを食べているからか役割分担もフォローも阿吽の呼吸のチームワークで、一人ひとりの個性や得意が生かされて奇跡の連続のように事が運んだ。
きっと、所沢生活村を綿々と紡ぎ繋いできた女性たちも、同じ目的に向かって力を尽くすときのチームワークがもたらす力に驚いたり喜んだりしてきたのだろう。実際に担ってやったことは違っていても、半世紀にわたる活動の原動力に触れられたような気がする。

仲間と一緒に計画を立てて実現していく過程は、ほんとうに面白かった。なにしろ、どんなモノになるのか誰も始めはわからなかったけれど、誰かが出したアイディアと、それに触発された誰かのアイディアが絡まりあって想像を超える何かが形づくられていく。そのワクワクがなんとも素敵な感覚だった。

編集者として私は、これまでさまざまな制作物や企画に携わってきたけれど、対価を得ることを前提として引き受ける仕事の第一の目標はクライアントの望む形に仕上げることで、あくまで指標はクライアント側にある。もちろん、そこにもワクワク感はあるし、創造する喜びもあるし、期待以上の仕上がりだと評価されれば嬉しくもなる。
だけど、自分たちがやりたくて企画して自分たちが探求したいままに形づくっていくのは、他者からの評価をあてにせずしかも対価もない分、空までスコンと自由が広がっているような感じで拠り所がない側面もあるのだけれど、互いに確認するうちに「うんうん、それだね」という感触が掴めてくるのが新鮮でよかった。

そんな周年事業の中で記念誌に関しては、慣れていることもあって私が全体の編集作業を受け持った。
内容は、こんなふう。
・会の理念と概要
・注文方法とその背景にある提携の意味
・取扱品目の紹介
・寄せていただいた「ここが自慢」「ここに力を入れています」の言葉も盛り込んだ生産者リスト
・「わたしのイチオシ!の食材」と「所沢生活村のこんなところが好き」の会員の声
・事務局3人からの50周年にあたっての文章
・生産者と消費者の提携運動を専門に研究している大学の教員でもある実行委員の一人が、長年の「会報」を紐解いて寄稿してくれた小論
・年表
そして末尾に編集後記を入れ、表紙と裏表紙も合わせて48ページ。この冊子に目を通せば、会の現状と、これまでの「あゆみ」と社会的背景がおおよそ学べる充実の一冊が出来上がった。

編集の過程で、尊敬すべき事務局3人の文章、研究者の視点で書かれた小論、まだ会ったことのない多くの生産者さんたちの言葉を何度も何度も読み返しながら私は民主主義とまっとうな食べものの関係について多くを学んだ。先輩たちと生産者さんたちの理念と正義心と行動力に敬服しきりだった。会の歴史を刻む記念誌の編集に携われたことは、私にとって貴重な体験となった。

1月後半に私が体調を崩してレイアウト作業が進められなかったせいで2月前半が怒涛の校正スケジュールになってしまったのだが、この類の発行物にしては誤字脱字なく仕上げることができたのはひとえに実行委員メンバーがものすごい集中力で直しを戻してくれたおかげだ。

個人的には、11月に購入した新しいiMacの「keynote」でレイアウトができて、今回の作業を通して実践的に使い方をマスターできたのも有意義だった。追い込みの2週間がかなりハードだったから、完成させたときは燃え尽き感があったが、これほど学びの多い編集作業であれば、またやりたい。

ほかの実行委員が考案してくれた素敵なロゴマークも完成し、店頭に黄緑色のロゴ入りシェードも飾られた。2月18日の「50周年のつどい」に先立って、男子学生さんのアルバイトも頼んで重い事務用机や引き出しの配置を換え、みんなで大掃除もして、拠点の「配分所」には新鮮な風が吹き込んだ感じだ。

そして。
喜ばしい出来事が起きた。
去年入会された新しい会員さんが「50周年のつどい」に参加され、その雰囲気のあたたかさに感じ入って事務局として働きたいと申し出てくれたのだ。かねてから、事務局長が望んでいた引き継ぎの可能性が現実のものとして芽生えたのである。長いこと会報で求人してもなしのつぶてで、記念事業が終わったらハローワークで求人しなければと理事会で話していたところだったから、みんなで力を尽くしたご褒美のように感じている。

過去を振り返って言葉を編みながら共有し、象徴となるロゴを形にし、場の動線を改め、場を清め、関わる人たちが集って食を分ち、ともに祝った記念事業。
一人ひとりの思いと力がそれぞれに伸び伸びと表出された先に、エネルギーが整って新しい流れがいきいきと生まれてくる。編集するって、そういうことなのだと教えてもらった。