11月4日から7日にかけて、「山の畑を見に行くツアー」に参加して三重まで行ってきた。東海道新幹線で名古屋へ、それから近鉄特急に乗って松阪へ。10名ほどの参加者の方々と松阪で合流し、津市美杉町、尾鷲市をめぐり、山や製材所で林業の現場を見学するという行程だった。
このツアーを企画してくれたのは、「百年杉」の加藤木材の加藤政実さん。
加藤さんとは、かつて東京の木を活用した木製品ブランド『SMALL WOOD TOKYO』を仲間と運営していたときに、『エコプロダクツ展2014』で偶然に隣り合わせで産地の異なる無垢の床材を展示したのをきっかけに知り合った。以後、細くつながっているだけだったのだが、2018年に私が所沢に引っ越してきてからはご近所づきあいで行き来するようになり、腹を割って放談しあう仲になった。「百年杉」を自宅に敷いたり、トイレと洗面所の壁を「百年杉」でリフォームしてもらったり、一方、加藤木材さんのwebサイトのプチ・リニューアルや実証実験の報告書作成を担当させてもらったりと、いまではプライベートでも仕事でもリスペクトしあう間柄だ。
今回のツアーで加藤さんが第一の目的としたのは、彼が「百年杉」をとおして知り合った都市部の人たちを、三重で林業に関わる二人のすごい人に会わせること。
もちろん、会わせるだけではない。加藤さんは、お二人の地道で奥深い営みを私たちに知らしめ、山の現状と大きな社会問題を突きつけ、アクションを焚きつけることを意図している。胸のうちにメラメラとたぎらせる彼の熱い闘志を、私は旅の道すがらヒリヒリと感じずにはいられなかった。いや、ほんとめっちゃ熱かったっす。でも、熱苦しくはなかった。その巻き込み力に圧倒されはしたけれど。
二人のすごい人とは、美杉町の三浦林商の三浦妃己郎さんと、尾鷲市の畦地製材所の畦地秀行さん。
三浦さんは、山主さんから託された山で、丁寧な選木で間伐しながら数百年単位の視野をもって木と森を育てていらっしゃる。木材の加工、特殊伐採なども得意という凄腕で、しかも、川上の清らかな水で無農薬のお茶やお米も育て、獣害から人の営みを守るためにGPSを取り付けた猟犬にパトロールさせるという希少な試みもされている。超高齢化の地元では、担い手のない田んぼや空き家の管理まであちらこちらから頼まれて引っ張りだこ。驚くほどのマルチ・タスクを粛々とこなしている貴重な存在である。
畦地さんは、高齢化率(65歳以上)44.9%という尾鷲市で、同業者がどんどん廃業するなかで踏みとどまり、サウナのような低温で高樹齢の杉を乾燥させる「百年杉」のブランド化に加藤さんと二人三脚で注力してきた。近年は、江戸時代から続く尾鷲林業の木材のキーパーソンとして自治体と協力して木育活動も展開していらっしゃる。
林業の現場で山と木と人の営みの話を聞かせていただくと、都市部に住む私たちの日常からは想像できない風景、社会問題がリアルに迫って見えてくる。
林業の担い手不足と高齢化は深刻だし、国の方針で進められている皆伐や間伐の光景は乱雑で救いようがなく感じられて胸がキリキリと痛む。だけど、「今やってることの評価は未来になってやっとわかる」と粛々と丁寧に営みつづける三浦さんや、「なにをやってもうまくいかない」と言いながらも捨てばちにならずに前向きにチャレンジする畦地さんの姿勢を目の当たりにすると、私なんかが生半可に憤ったり批判したりするのがいかに不遜であるかを思い知らされる。
都市部に住んでいると、食べ物も資材も「買う」「消費する」のが当たり前になってしまいがちだ。地方の第一次産業の担い手たちが獣害や超高齢化や技術継承の困難さといった待ったなしの厳しい現実に毎日向き合っていることなど考えずに(というか、目を背けて)、のほほんと暮らしてしまっている。このままでいいのか?……あらためて、もっと「自分ごと」として関わっていきたいと強く思いました。
「いつまで引きこもってるの?」と焚きつけて連れ出してくれた加藤さん、そして外からの見学者を受け入れて真摯な姿勢と知見を惜しみなく開示してくださった三浦さんと畦地さんに心から感謝。
見たこと聞いたこと感じたことが多すぎて、思案していると機を逃してしまいそうなので、まずは備忘アルバムを公開しておきます。