私がやることは、いつも同じらしい

日々の楽しみ

今年のゴールデンウィークは、91歳の父を連れて、母を迎えに春爛漫の札幌へ行ってきた。で、おいしいスイーツをたくさん食べたこともブログに書いたし写真もアップした。

それらすべてのスイーツ類は、言わずもがな父のおごり。笑
なので、いつもなら自分ではちょっと手が出ない、まれに贈り物でいただくようなブランドのお菓子も、ウフフッと姉と共謀して街に出かけたついでにデパ地下で買ってきたりもした。

父の日常のあれこれや用事をこれでもかこれでもかとサポートしても、母の移動の準備や衣類の片付けにどれだけの時間と労力をかけても、昭和一桁男の俺様中心主義の父は決して私たちをねぎらってなどくれない。だから、あちらさまのお財布をちゃっかり握って、積極的に恩恵に浴させていただいた。もちろん、一緒に食べながら「パパ、ありがとう!」と、あたかも自発的に彼が私たちをねぎらっているかのように、そしてそれがどんなに素敵なことであるかが伝わるよう、姉と結託しておおげさに振る舞っていましたが。

というわけで、DEMEL。
ご存知の方も少なくないと思いますが、本拠はウィーンにある有名菓子店。ザッハトルテやチョコレート、クッキーなど、かつてのオーストリア帝国はハプスブルグ家御用達だった味なんだそうで。

スパイシーなクッキーがチョコに包まれている「バンブー」が一番好き♡

チョコレートやクッキーがとても美味しくて、パッケージや包装紙の色や柄もスペシャル感が半端なくて、ほんとウキウキさせてくれます。
それで今回は4種類ほど買っていろいろ味わってから、きれいにテープをはがせた包装紙を文庫本のカバーにしてみた。
滞在中に、父の本棚にあった『お登勢』(船山肇著)を読み始めていて、600ページを超える分厚いその本を、金色のDEMELのシールがついたままの包装紙でカバーしたのでした。
本の内容とは全然合わないな〜と思ったけど、そんなことは超越するほど愛らしく、持つ手にもしっくり♡

私は移動中に本を持っていないと落ち着かない性分で、札幌から所沢への旅路もリュックにこの本を入れてあったのだけれど、ほとんど寝たきりの82歳の母とかなりボケた91歳の父を連れての三姉妹総出で力を合わせての移動とあって、本を開く余裕などあるはずもなかった。

所沢の自宅に帰ってからも、母のために札幌から送っておいた大量の荷物が届いて片付け三昧が続いたり、加えて浴室リフォームの段取りがスタートしたりして、なかなかゆっくり読書時間が取れずに1週間が過ぎ、父を近所のクリニックに連れていかねばならない日がやってきた。

父は、高齢者のご多分に漏れず1ヶ月に一回診察を受けて血圧だの血糖値だのをどうこうする薬を処方してもらっていて、そのために毎月、姉か私が同行するのが常である。
クリニックでは、長いときは1時間半くらい、短くても30分くらいは待つので、私はいつも何かしら本を持参する。
その日、「そうだ、読みかけの『お登勢』を持っていこう」と思ったのは、上記のような流れから自然な成り行きだったのだが、いつものことだけれど、「そんな早く行かなくても」というタイミングで父が玄関先で「行くぞ!」と急かすもんで、あたふたと慌ててベッドサイドの棚からDEMELの包装紙にくるまった文庫本を取ってリュックに放り込んで出かける次第となった。

受付で診察券と保険証を出し、待合室の椅子に父を座らせ、待合室の奥に置かれた給水器の水を紙コップに注いで父に差し出し(尿検査のために父はいつもここで水を飲む)、やれやれどっこらしょと私も座って、おー、やっと読めるわ、と本をリュックから取り出して栞が挟んであるページを開いた。

ところが、ややや?よよよ? ……『お登勢』は幕末の淡路島にはじまり、十六になったお登勢が武家奉公に出され、その武家の娘に連れられて徳島に渡ったところまで読んだはずだったのに、そのページはこんな文から始まってしまった。

「現代人が遠くの高みからサクソン人の村を見下ろしたとすれば、兎の巣穴のようだったアクセルとベアトリスの村よりよほど「村」らしいと思ったことだろう。」
なんじゃこりゃ? お登勢の話と全然違うぅ〜!

DEMELの包装紙をめくってみると、それはカズオ・イシグロの「忘れられた巨人」なのであった。あら、やだ。
思えば数年前、姉の本棚から拝借した本ではないか。

姉の本棚から借りたことは思い出したけれど、DEMELをブックカバーにしたことは、とんと覚えていない。だけど、きっと私なんだな。だって、姉はカバーをかけたままの本を本棚に入れたりしない。だから、このカバーをかけたのは私だとしか考えられない。

帰宅して比べてみると、『お登勢』のほうが圧倒的に厚みに勝るのだが、こちらも500ページ弱とそこそこの厚さ。まあ、慌てているときにパッと見分けがつかなくても無理はない。というか、そもそも別のDEMEL本があることを私はすっかり忘れていたし、しかもそれが普段から手の届く場所に置いたままになっていたのを何ヶ月?何年?も気づかずにいたのだから、分厚さの比較の問題ではない。

よよよ、なんだか、我ながら恥ずかしいです。しょぼん。

だけど、胸をはって言えることがあるとすれば、
私はDEMELのお菓子が好き。
DEMELの包装紙も好き。
そして、私はDEMELの包装紙を文庫本カバーにするのも好き。
ってことなんでしょうね。
てへへ。