気づけば、パーカーばかり着ている

日々の楽しみ

このところ、パーカーばかり着ている。
「パーカーばかり着よう」と決めてそうしているわけではなく、気づいたら、そうなっていたというのが実情だ。日常における着用率は、たぶん9割を超えている。
これほどいつも着ていると、「私」=「パーカーを着ている私」と言っても過言ではなく、パーカーを着ていないとなんだか落ち着かなくなるほどだ。

こんな状況になって振り返るに、パーカーと私の関係はなかなかどっこい長い年月を経て築かれていることをあらためて実感するわけだが、ずっと前からこれほどに濃い関係だったわけではない。むしろ長年、ときどき部屋で着る、散歩に出かけるときに羽織る、くらいの薄い関係だった。あくまでもパーカーは、カーデガン、セーター、チョッキなどと同列の一つの選択肢でしかなかった。

そんなどちらかというと薄く長い関係が変化する大きなきっかけは、3年半前、当時営んでいた会社のオフィスと自宅にしていた都内の賃貸マンションを引き払い、父母が45年以上前に建てた郊外の一軒家に引っ越したことだった。結果、ほとんどの時間を家で過ごすようになり、加えて昨年2020年3月以降のコロナ感染拡大の影響によるステイホームを経て、打ち合わせも取材もビデオチャットがスタンダードになって外出機会がさらに減り、自然とパーカー着用率がどんどん高まってきたのである。

パーカーは、ご存知のように伸縮性のある素材でできていて、いたって動きやすい。体を締め付けず、「肩が凝ったなぁ」と首や腕をグルグルするのも自在だし、実用的なサイズのポケットが付いているのでスマホを入れてRadikoでラジオを聴きながら料理や掃除をするにも便利だ。しかも丈夫で、シワにならず、もちろんアイロンは不要。
そしてパーカーの一番の特徴といえば、フードである。日常的にフードを被るのはごくまれで、散歩中に小雨がパラついてきた時くらいなのだが、その頭に被れるという機能よりも、首から背中上部までを覆ってくれる保温機能の心地よさが着用率向上に寄与していると断言してよいだろう。というわけで、夏以外の、春・秋・冬の3シーズン手放せなくなっている。

そうして3年半前からパーカーとの親密度が高まってきたのだが、ねんごろなその関係がさらに濃厚になったのは、昨年の冬からであった。
築45年を越える一軒家は、寒い。夜から朝方にかけての冷え込みが、とても厳しい。布団にもぐりこんでぬくぬくしようとしても、枕上の頭がスースーする。ややもすると掛け布団のすきまから冷気が入り込んできて肩までシーンと冷えてくる。
ある晩、いつものように就寝前の読書を終え、それまで着ていたパーカーをいつもなら脱いでパジャマで寝るところを、そのまま横になってみると、えもいえぬウォーム感が保たれて心地よいことに気がついた。
えっ? 首も肩も寒くなくね?
ひょっとして、フードを被ったら頭も冷えないんじゃね?

……この衝撃的な発見の晩から、パーカーとの関係は一挙に深みにはまった。
それまではジッパー付きのパーカーしか持っていなかったのだが、寝るにあたってはチャックを締めると金具がアゴおよび首に当たって不快なため、初めてジッパーなしのパーカーを購入。真冬はフードを被り、文字通り頭から足先まで全身あたたかく快適に眠れるようになった。これはもうパーフェクトの域なのよ。

結果、冬期のパーカー着用率が9割に及ぶこととなったのであった。昼間だけであればせいぜい6割が限度であろうが、これが就寝時もということになると、パーカーと私の関係はもうずぶすぶ。切っても切れない関係に発展してしまったのである。

なんだけど、さすがに電車に乗って出かける時は、それがハイキング目的なんかじゃなければ「パーカーじゃないものを着ていくべきだ」と私にささやきかける良識が心にあって、その良識が葛藤を生む。パーカーを脱ぐくらいなら、いっそ出かけるのを止めてしまいたい。だって、肌身を削がれるのは辛い。自分が自分ではなくなってしまう分裂感を味わうのも嫌だ。
でも、往々にして「出かけること=仕事関係」という事情が私にはある。それなりに少しはちゃんとした格好をしなければならないこともある。ならばいっそ、職の領域をヒップホップ系とかスポーツ系とかにズズズッとシフトしていきたいところだが、それはいささか現実的ではないアラカンの私。トホホ、おおいに葛藤しますわ。

今回ブログを書くにあたって、パーカーの語源を検索してみたところ、アザラシやトナカイなどの毛皮で作ったフード付きの防寒着を示すイヌイット語の「parka」なのだそうだ。で、発音は「パーカー」ではなく「パーカ」が正しいようだ。しかし時代を経て「パーカー」も間違いというわけではなくなってきて、メーカーによっては「パーカー」と表記していたり、いろいろな作家が作品中でどちらの表記を使用しているかを分析している記事などもあったりして、なかなか興味深い世界なのだと知った。
ずぶずぶな関係になってからやっと、きみの奥深さに気付かされたよパーカーさん。愛着のみならず、リスペクトの気持ちも湧いてきた。

さらに、ネット検索をしながら、着こなしによってはパーカーも「おでかけ着」に昇格できる可能性があることに遅ればせながら気がついた。が、実践するには研究と投資が必要そうだ。洋服に関してズボラな私には、越えるべきハードルが高い。とはいえパーカーとの関係がここまで深化してしまったからには、鋭意がんばる所存でございます。

※ あえてこのブログでは、「パーカ」ではなく「パーカー」を採用した。理由は、私は長らく「パーカー」と呼んできたから。それに、「カ」で終わるより「カー」と伸ばすほうが、「切っても切れない感」がそこはかとなく醸される気がするのよね。