今年2019年の夏は7月後半から8月末まで、札幌の父母の家で過ごした。
その間、従姉妹に会いに富良野に足を伸ばしたり、札幌の女性起業支援に関わる人たちに会いに行ったり、『さっぽろ圏移住者カフェ』に参加してみたり、資料館や美術館を訪れたりした。
久しぶりに、幾多の新しい出会いに恵まれた1ヶ月余だった。
北海道の人々と自然に魅力を感じる日々だった。
なかでも心に残っている出会いのひとつが、雑誌『スロウ』だ。
私は札幌生まれではあるが、暮らしたのは3歳までと小学生時代の2年ちょっと、合わせても約5年ほどの年月でしかない。私が大学生になった頃に父母が札幌に定住し、以後しばしば訪れてはいるものの、札幌のことも北海道のこともあまり知らずに今に至っている。
遅ればせながらもっと知りたいと思い、図書館の地域情報の雑誌コーナーを眺めていたところ、風合いの好ましい雑誌『スロウ』が目に止まったのだった。
最新号から最近のバックナンバーまで、手にとって眺めてみた。
全体の色合いがクリーミーで明るく、マットすぎずテカリすぎず、見る目に穏やかに寄り添ってくれるのが好ましい。そして毎号の冒頭9ページを彩る風景写真と、写真についての短いエッセイが心にスッと染みてくる。ページを繰ると、農業や工芸や飲食などの営みを通して人々の顔が見えてくる。文章は平易で簡潔で読みやすく、人や物に対する書き手のあたたかな視線に誘われ、対象への好意が自然と胸に湧き出てくるのを感じる。
思えば、雑誌というものを積極的に手にしなくなって久しい。
最先端の話題も、最新のファッションやライフスタイルも、触れると疲れる。消費を煽られると、うんざりする。だから雑誌は見たくない。そんな気分になって何年も経つ。
でも、雑誌『スロウ』が提示している人や物との関係性は、私が倦んでいたそれとは全く違うのだった。
北海道各地の小規模な生産者さんのプロダクツを扱う通販ページが雑誌の3分の1ほどを占めるのだが、消費を煽られる不快感を抱かないどころか、むしろ等身大の生身の作り手さんの生き方を垣間見て興味がそそられる。地に足を着けた生産者さんと誠実につながり、地域とともに歩もうとする編集者の姿勢がじんわりと温かく感じられる。
手にすると、心がホッとする雑誌。それが『スロウ』だった。
北海道に、こんな雑誌があったとは。
発行しているのはどんな会社なのだろうかと興味を持って見てみると、発行元はソーゴー印刷株式会社とある。拠点が帯広市であることに驚いた。北海道の情報発信の中心地は県庁所在地である札幌だろうという、私の先入観が気持ちよく裏切られたのだった。
帯広のある十勝地方は、北海道のなかでも独立心旺盛で特殊な地域性があると聞く。それは明治初期、多くの開拓団は官営だったが、十勝は静岡県の依田勉三が率いる民営の開拓団によって切り開かれたことに由来するとも聞く。
雑誌『スロウ』の発行元のソーゴー印刷株式会社さんは、北海道各地の『スロウな旅』シリーズ、十勝への移住情報誌『わくらす・りくらす』、『北の焙煎人』など、あたたかな心と眼差しで拾い集めた情報を『クナウマガジン』として出版している。
北海道をよりよく知りたいと思っている人に、そしてなんとなく生活や仕事に疲れているなと感じがちな人にも、心から『クナウマガジン』をおすすめする。
北海道以外にも取扱書店はあるが、通販サイト『スロウなお買い物』でも買える。