急増している「花粉症対策杉」の苗とは?

森と暮らし

花粉が少ない杉の苗、ご覧になったことがありますか?
上の写真は、2015年の夏に青梅市の山を案内してもらったときに撮った、「皆伐」のあとに植えられた苗です。

お行儀よく、一列に植えられていました。

このような花粉量がゼロか微量の「花粉症対策杉」が、国民病ともいわれる花粉症への対策として全国各地の人工林に植えられています。

日本農業新聞の2018年3月18日付けの記事「花粉症対策杉 苗が急増 16年度生産量の25%に」によると、「2016年度の生産量は、前年度比25%増の533万本に達し、同年度の杉苗木に占める割合は25%に上った。」

その背景には、こんな事情があるそうです。
「苗木の元になる枝先や種子を採取するには、木を植えてから十数年かかる。こうした枝先や種子の供給源となる木が確保できるようになったことで、苗木の増産につながっている。」

なるほど、はじめは増やそうと思っても増やせないけど、年々がんばって増やしているうちに急激に増やせるようになるのですね。
棒グラフの右肩上がりに、勢いがあります。ぜひリンク先の記事で見てみてください。

この記事では、苗が急増しても「植林面積に換算すると、国内の杉の人工林面積の0.1%に満たず」という現状も指摘されています。
敗戦後に想像を絶する大量の杉を植えてしまったツケの大きさに、あらためて気が遠くなります。

林野庁の「花粉発生源対策の推進」を見ると、「花粉症対策苗木」の供給拡大を加速化するために多くの予算が使われていることがわかります。苗が急増するのは、補助金あってのことでもあるのです。

平成29年度
全体予算 463百万円のうち、
花粉症対策苗木への植替えの促進に50百万円
花粉症対策苗木の需要・供給の拡大 に351百万円と、
合わせて401百万円が苗木関連。
全体の約86%を占めています。

「花粉症対策杉」って、どんな杉?

では、「花粉症対策杉」とは、どんな杉なのでしょうか?

森林総合研究所の公報誌「季刊 森林総研No.40」(2018年2月28日発行)の特集は、「無花粉スギの研究最前線」です。
どのように開発が行われているかが、5つの記事で紹介されています。

印象的だったのは、DNA解析やゲノム編集といった技術もさることながら、研究の初期段階で、無花粉杉を探している写真(p2_写真1 無花粉スギの採取の様子)でした。

雪の積もる森で男性が、長い竿のようなもので杉を叩いている写真です。
叩いている杉の木から、粉のようなものがもくもくと出ているのも見てとれます。
「最前線」のはじまりが、このような原始的アクションだという事実が、私にとってはとても新鮮だったのです。

この特集を読んで、初めて知ったことがいろいろありました。
・無花粉杉はもともと自然界には数千本に一本の割合でしか存在しないこと。
・それを親木として掛け合わせ、その中でも成長が優れているものが選ばれて苗木がつくられていること。
・そうしてつくられた苗には、花粉をつくる個体も混じっていて、遺伝子の塩基配列の「遺伝マーカー」によって判別することができるものの、現段階では100%の確率ではないこと。
・「ゲノム編集」によって、花粉をつくる遺伝子の機能を失わせる技術の開発も行われていること。
……など。

興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。

必要なのは、想像力!

……と、あれこれ調べてみました、無花粉杉について。

でも、正直よくわかりません。
考えも、思いも、もやもやした状態になってしまいました。

がんばって無花粉杉を増やしてどうなるんだろう?
……未来を予想してみようとしても、よくわかりません。

杉は30〜40年してやっと木材として使えるようになります。

いま植えた無花粉杉が、大きくなる何十年後かに、社会はどうなっているのでしょうか?
花粉症の原因は、花粉と自動車の排気ガスなどが化学反応した物質によるともいわれていますが、その頃、排気ガスはまだ大量に排出されているでしょうか?
あるいは、今も行き場がなかったり粗末に扱われたりしがちな杉材は、どのように活用されるようになっているでしょうか?
そして、「無花粉」であることは、その頃、プラスの影響だけもたらしてくれるのでしょうか?

……いろんな疑問がわいくるばかりで、もやもやします。

一つわかったことがあるとしたら、とても長い時間軸で見つめていく必要があるということ。

30年後、40年後、無花粉杉が植えられたこの山は、この景色は、どんな風に変化しているでしょうか。
見つづけ、考えつづけていきたいと思います。

※2018年6月に『SMALL WOOD TOKYO』のブログページに掲載した記事を再録しました。