発見いっぱい原田病日記|その11|病気の大先輩が教えてくれた「怠けることは偉いことなんだよ」という言葉をかみしめるコロナ禍の日々

原田病日記

このところ、御多分にもれず家に引きこもって暮らしている。

東京都の小池知事が「感染爆発の重大局面」だとして外出自粛やテレワークの実施を最初に呼び掛けたのが3月25日。1都6県への国の「緊急事態宣言」は4月7日、4月16日には宣言が全国に拡大された。

そんなわけで、私はとある仕事で3月24日に東新宿まで行って以来、電車にもバスにも乗っていない。つまり、それ以来ずっと、自宅のある埼玉県所沢市から外に出ていない(近所の散歩や買い物には出かけてるけど)。
ということは、えーと何日間、都内に行っていないのかな? 今日は5月7日だから……あらま、40日を軽く超えている。
いやはや、電車の乗り方を忘れてしまわないか心配だ。笑

県境をまたぐ移動はひかえろなんて、まるで「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」の『翔んで埼玉』の世界だ。しかも、まだまだ続きそうな不穏な先行き。
やれやれ、いつまで続くんでしょうね、自粛生活。

そんな中、予定されていた仕事はペンディング。
残るは、家でできる細々とした仕事がひとつだけ。
蓄えは慎ましく、いつまで食いつないでいけるかはなはだ心もとない日々である。困ったものだ。いつ届くんでしょうね、給付金。不安がパっと消えるはずだったアベノマスクもまだ届いてないし、不安がドバッと増しますねぇ。

しかも、不安な状況にもかかわらず、私はじたばたもできない。
というのも、じたばたしようにも、体力に自信がない。というか、自分の免疫力が信頼できない。だって、私の免疫は暴走して原田病を発症してしまっているんだもん。

原田病は、体内のメラニン色素を免疫が攻撃してしまうという免疫疾患だ。
原因がわからないし、根本治療の方法もわからない。いまある唯一の治療法は、暴走した免疫をステロイド薬で抑えることだけ。
というわけで私は一昨年10月に4年近く続けた経口薬を、そして昨年8月に点眼薬を終えて、いまはステロイドなしで症状は出てはいないものの、再発しないという確証はない。

4年近くもステロイド薬で抑えつづけられた私の免疫力は、現状どんな具合なのだろうか? まったく見当がつかない。
薬をやめたのだから、普通の免疫力に戻っている? 
いやいや、ひとたび暴走しちゃったんだもん、普通に戻ってるとは思えない。

そもそも「普通の免疫力」って何だろう? 体温計とか血圧計とかで測るみたいに免疫も測定できれば目安になろうが、そんな手立ては存在しない。

ステロイドで治療をしていた間は、お医者さんからも薬剤師さんからも「免疫力がとても低くなっているから気をつけて」と言われていた。「なるべく人ごみを避けて、出かけるならマスクを」とアドバイスされてもいた。
そして私は治療を終えてからも自分の免疫力に自信が持てなくて、人ごみはなるべく避け、出かけるときはマスクをする習慣を保ってきた。

思えば、最近実践者が急増した「自粛生活」を、すでに4年以上も続けてきたようなものだ。しかし慣れてはいるとはいえ、ここまで動きが制限されると、さすがに鬱々しそうになる。

そして鬱々しそうになると、思い出す言葉がある。
パルス治療を終えて退院したときに、家に遊びにきてくれた中学時代の同級生が言ってくれた言葉だ。

「とも、怠けることは偉いことなんだよ

彼女は、やはり免疫疾患の一種であるリュウマチを20代で発症し、かれこれ30年もさまざまな薬で治療を試み、何度もの手術にも耐えてきた。そんな「病気の大先輩」である彼女が、そう言うのである。

「休養する」とか「静養する」ではなく、あえて「怠ける」。
しかも、それを「偉いこと」と言い切る。
そこに、長年治療をしながら会社勤めを続けてきた彼女の洞察がにじむ。スレンダーで走るのが速くてテニスも強くてカッコよくて努力家だった彼女が、おそらく長年自分に言い聞かせてきた言葉なのだろうと思う。

日本社会では、勤勉さが評価される。それは悪いことではないが、その裏で、同調圧力として勤勉さが必要以上に求められるように思う。そして多くの人が、「がんばれ」という言葉を安易に突きつけてくる。
それがゆえに、病気や障がいのある人にとっては生きづらい場面が多いようにも感じる。加えて、病気になるのは不摂生をした人であるかのような自己責任論を声高に口にする閣僚政治家までいるから、ますます肩身が狭くなりそうだ。コンチクショウ!

だからこそ、「怠けることは偉いこと」と言い切るのが、実はとても大切なのだと彼女は教えてくれたのだと思う。

新型コロナウィルスが拡大している今は、家に引きこもるのが自分自身のためにも社会のためにも良いことだ。そうわかってはいても、心のどこかで、自分がエッセンシャルワーカーとして社会の役に立てないことに罪悪感を覚え、通勤電車に乗らずにいられることも申し訳なく感じてしまいそうになる。

だからこそ、「怠けることは偉いこと」と私は自分に何度も言い聞かせる。

そう、今日もよく眠れた、美味しくご飯が食べられた、気持ちよく散歩ができた。
そして不安に流されることも焦燥感に身悶えすることもなく、深い呼吸をしながら一日のんびりと怠けられたら、自分を褒めよう。

偉いぞ、私!