北欧の国が、どうやって女性にも男性にも生きやすい社会をつくってきたかを教えてくれる本

気になること

ある朝、10歳の女の子エッバが新聞を見ていたら、『G8ジェノバ・サミット』の「世界の権力者」たちの集合写真が載っていた(写真を見ると、日本から出席したのは当時首相だった小泉純一。2001年のことで、その後2014年にロシアが抜けて現在はG7)。

何なの、それ?
世の中の大事なことを決める人たちってこと?
似たようなスーツ姿のおじさんが8人!
一体どうして?
どうして女の人がひとりもいないのよ?
女の人はえらくなれないの?

……この衝撃の気づきをきっかけに、エッバは年上のいとこのヨリンダやおばあちゃんのシャスティンに質問を投げかける。そして女の子の友だち2人と男の子の友だち2人と疑問を共有し、正義を求める『フェミ・クラブ』を結成して議論や調査をスタートする。

そんな行動力あふれる少女エッバの曇りのない視点に導かれて、読者もいっしょに「フェミニズム」について探求できるのが『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(サッサ・ブーレグレーン著・枇谷玲子訳/岩崎書店2018年5月発行/原作Lilla Feministboken2006年)である。
児童書だが、大人が読んでもとても勉強になるし、何より未来に向けての勇気を与えてくれるチャーミングな一冊だ。

人類の歴史をとおして男女の役割がどうやって固定化してきたのか。
ヨーロッパで「女性の権利」がどのように主張されてきたのか。
どんなフェミニストたちが運動をつなぎ、どうやって女性たちが選挙権が獲得したのか。
これまでに権力を持った女性たちにはどんな人がいるのか。
そして、権力や支配にはどんな罠がひそんでいるのか。
etc.

エッバは次々と学びながら、女の子らしく振る舞うことへの抵抗感の源を探ったり、平等な社会をつくるために何ができるか仲間と議論したりする。

そして本の最後では、「国際女性の日」である3月8日に、仲間といっしょにデモに参加する。
エッバたちのスローガンは、こうだ。

わたしはわたし、ぼくはぼく。そのままの自分でいさせて。

エッバたちの手には、こんなプラカードも掲げられている。
「子どもに選挙権を」
「お父さんを解放しろ」
「美の押しつけはやめて」


エッバの国スウェーデンは、北ヨーロッパに位置する。
世界経済フォーラムが公表する「ジェンダー・ギャップ指数2020」の国際比較では、1位アイルランド、2位ノルウェー、3位フィンランドにつづく4位がスウェーデン。北欧の国々は男女格差が少ない、つまり男女平等が進んでいることがわかる。
121位まで順位を下げつづけている日本から見ると、はるかはるか先を行っているのだ。

そのスウェーデンで子どもに向けて編集されたこの本から、私たちが学ぶことは多い。
平等を求めて闘った女性たち、女性の権利を自ら理論づけた女性たち、支配への疑問を素朴に問いつづける女性たちについて語り継ぐことの大切さが、この一冊には込められている。日本でも語り継ぎ、語りつづけるべき大切なことがあることにも、思いを馳せさせてくれる。


私にとっては、とりわけエッバのおばあちゃんの言葉が印象深く心に残った。

「わたしはいろいろなフェミニスト団体に、参加していたよ。それに投書もした。3月8日には、もちろんデモに参加したよ。
だが、わたしがやったことは、ほかにもある。とっても大事なことをね。それはね、子どもたち、つまりお前の母親と叔父さんを、同じように育てたことさ。人形と車の両方で遊ばせたのさ。それに2人とも、パンクを直せるようにも、パンケーキを作れるようにも教えたんだ。2人を平等にあつかうよう、気をつけた。そうすることで、世代が変わるたび、1歩ずつ前に進めるんだ」

そして「でもじゃあ、わたしは何をしたらいいのかな?」と問うエッバに、おばあちゃんはこんなふうに答える。

「それは自分で考えたらいい。わたしは、わたしにできることをした。今はあんたがバトンを受け取ったんだ。今は時代がちがうんだ。昔とは別のやり方でやらなくちゃ。それに新しいアイディアも、今若いあんたたちが考え出せるはずだよ!」

私は、エッバのおばあちゃんのように子育てにおいてフェミ視点を十二分に根付かせられなかったが、でも、これからできることはまだまだあるに違いない。
このブログも、小さなアクションのひとつ。
さて、これから何ができるかな。エッバたちに見習って、行動しつづけたい。