生きたいように生きさせろ! 100年前の東京で、ロンドンで、ダブリンで、全力で闘った女性3人の壮絶な生きざまに胸打たれる

気になること

ブレイディみかこ著『女たちのテロル』(岩波書店2019年5月)を一気に読んだ。というか、一気に濁流に飲み込まれて読まされてしまった。
一気に読まねば、息が吸えなくて窒息するかと思うほどの緊迫感。必死に泳ぎながら息継ぎするのだが、ときに水が口に流れこんでくる、そんな感じ。ああ、緊迫感に溺れるかと思った。ふーーーーっ!!

ここに描かれている「女たち」とは、
金子文子(1903-1926)
エミリー・デイヴィソン(1872-1913)
マーガレット・スキニダー(1893-1971)。

20世紀初頭の東京(日本)、ロンドン(英国)、ダブリン(アイルランド)で、それぞれ国家権力に向かって、自由に生きる権利を求めて激しく挑んだ3人の女性だ。

金子文子は、貧しい家庭に生まれて虐待を受けて育ち、途中、日本占領下の朝鮮に暮らしていた祖母に引き取られて13歳で自殺も考えたが踏みとどまるという「どん底」を生きながらアナキストの思想を体得し、関東大震災後の朝鮮人大虐殺の流れのなかで天皇否定と大日本帝国滅亡を唱えたとして「大逆罪」で裁かれ、23歳の若さで獄死した。

エミリー・デイヴィソンは、英国の女性参政権運動「サフラジェット」のなかでも特に過激な武装派として知られ、財務大臣の車に煉瓦を投げつけたり、国会議事堂に忍び込んだり、郵便ポストに放火するなどストリートで大暴れして9回も刑務所に入れられ、そこでハンガーストライキを何度も試みては強制摂食という拷問にかけられ、果てに、競馬場のダービーで国王の馬の前に飛び出して37歳で命を落とした。

マーガレット・スキニダーは、育ちはスコットランドのグラスゴーだが両親はアイルランド人で、アイルランド義勇軍とアイルランド人女性連盟に参加して独立運動に身を投じ、1916年のダブリンでのイースター蜂起では射撃の名手として英国軍と戦い、銃弾を受けて大怪我をするも回復後は米国に渡って女性連盟の宣伝活動をしながら各地を回り、のちにアイルランドに戻って独立戦争や内戦でも戦いつづけたという強者だ。

3人とも、激しい。
生きざまが、激しすぎる。
そして現実には面識も関係性もなかった超激烈な3人が、『女たちのテロル』という一冊の本のなかでドックンドックンと血潮が渦まく激流のなかで重ね合わされながら、すっくりと共に蘇ったのである。これは、奇跡だと思う。

本人たちにとっては、100年後に、よもやこのような形で繋ぎ合わされて蘇ることになろうとは、それこそ宇宙旅行ほどに想像できない出来事だろうが、もしあの世でそれを知ったなら、喜んで互いにハグして健闘をたたえあうに違いない。
そして、国や社会や差別や偏見に対して妥協することなく挑んだ3人を繋ぎ、時代を超えて蘇らせた著者をも、彼女らはきっと強く強くハグするだろう。

巻末の「ガールズ・コーリング – あとがきに代えて」で、この3人にどのように導かれたかを著者は語っている。読むと、この著者によってこの本が今の日本で出版されたことに、しみじみと感慨を覚えずにはいられない。

社会格差も男女格差も拡大している上に、新型コロナウイルス感染危機の暗い雲が世界を覆っている。そんな状況だからこそ、今よりも自由や権利が過少にしか認められていなかった時代に国家権力に対してNOを激しくつきつけた女性たちの生きざまを知り、その闘いのバトンを受け継ぐ意志を持っていたいと切に思う。

誰もが、生きたいように生きればいい。
「生きたいように生きさせろ!」と大きな声で叫べばいい。