コロナ以後を考えるために、政権を握っている自民党を知っておかなくちゃと思って読んでみたよ、『自民党』と『日本会議の正体』

気になること

新型コロナウイルスの感染が国際的に拡大している中、SNSやWebメディアの情報をあれこれ見ていると、各国の対策に大きな差があることがよくわかる。
比較していると、あれれ? 日本政府の対策は遅れがちじゃない? 対策の選択や決断の裏付けが説明されてなくない? 今後の計画方針や見通しも不明瞭すぎない?……などと不安に感じることが多い。

ドイツのメルケル首相のメッセージは心にジンと浸みる。
ニュージーランドのアーダーン首相のメッセージは、子どもにもわかるだろう。
いいないいな、うちらの国も女性首相だったら、どんなメッセージを出しただろう?……なんて指をくわえて見ていたら、そのかたわらで日本の首相は視線を右へ左へと交互に動かしながらプロンプターの原稿を追うばかりで、こっちにいる国民にちっとも目を向けないじゃないか。しかも変なところで文章を区切って読むものだから、何を発信したいのか意味がよくわからない。もちろん真心なんてものは伝わってこない。おいおい、大丈夫か? こんなリーダーで?

新型コロナウイルスの感染拡大も不安だが、こんな首相がトップであることに、さらなる不安を掻き立てられる日々である。

いったいどうして、この人が首相の座にいるんだろう?
そもそも、どうして自民党が政権与党になっているのだろう?

そんな疑問がふつふつと湧いてくる。
そして答えを求めて読んだのが、中島岳志著『自民党』(スタンド・ブックス2019年6月発行)と青木理著『日本会議の正体』(平凡社新書2016年7月発行)の2冊の本だ。
図書館が閉鎖される前に借りていて、よかった。

現状の裏側が、すこしずつ見えてきた気がする。
まだ読んでいない方には、2冊とも熱烈におすすめする。

政治家のヴィジョンの読み方を教えてくれる本『自民党』

さて、1冊目の『自民党』は、現政権を握っている自民党の有力議員9人をピックアップし、それぞれの特徴を分析してまとめた本である。

分析の基本は、「リスクの問題」と「価値」の二軸のマトリクス。
各議員の著書やインタビュー記事などの膨大な資料にあたり、それぞれの発言や論調からヴィジョンを抽出し、マトリクスにプロットしているのである。たいへんな作業量だったと思う。すごいぞ、中島岳志さん。

巻末には、田中角栄以降の自民党政治の歴史の流れが同じマトリクスを使って表されていて、目からウロコのわかりやすさだった。現代史の理解度を、グンと深めてもらった気がした。

そのマトリクスとは、以下の図である。

各政治家の政治的スタンスをここにプロットする

横軸の左の「リベラル」は、選択制夫婦別姓やLGBTの婚姻の権利を認めるといった多様性に寛容な価値観。
対する右の「パターナル」とは、権力を持つ人が価値を定めることを基本とする、いわゆる父権的な家族観が代表するような価値観である。

一方、縦軸の上の「リスクの社会化」は、様々なリスクに対して社会はセーフティネットを強化すべきと考え、低所得者や社会的弱者への再配分を大きくし、税金を高くして行政サービスを充実させるという社会のあり方。
対して下方の「リスクの個人化」は、様々なリスクに個人が対処すべきと考える「自己責任型」の社会のあり方を指す。

分析される有力議員9人は、安倍晋三、石破茂、菅義偉、野田聖子、河野太郎、岸田文雄、加藤勝信、小渕優子、小泉進次郎。
安倍政権の中核にいる安倍・菅の両氏は、言うまでもなく「パターナル」で「リスクの個人化」に偏るⅣタイプなのは読む前から私にもわかったが、ほかの7人はさて、それぞれⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳのどこに位置づけられるのか。
読みながら、ふむふむ、政治家の読み方が学べた。

来年もしくは早ければ今年に行われるかもしれない衆議院議員選挙に向けて、どんな候補者に投票すれば、どんな社会の変化が期待できるかを思い描く一助にもなってくれるに違いない。
さっきも言ったが、まだ読んでいない方には、熱烈におすすめする。

戦前の天皇制回帰を願う右派の力が全国津々浦々にうごめいているのだよ!

そして2冊目の『日本会議の正体』は、国内メディアで大きく取り上げられることがほとんどないのに現政権の中枢に強い影響力をもっている極右団体『日本会議(にっぽんかいぎ)』についてのルポルタージュである。
うっすらと聞き及んではいたものの、これほどの存在だったとは驚きだった。

この本を読んで私は初めて、国民主権を否定する復古的な天皇中心主義のために「全国津々浦々で草の根国民運動を展開」している人たちの多さと組織の複雑さと厚みを知った。
しかも日本会議の『国会議員懇談会』には、安倍首相をはじめ、麻生太郎、菅義偉、石破茂、加藤勝信、萩生田耕一、世耕弘成、柴山昌彦、衛藤晟一、丸川珠代、稲田朋美などの自民党議員の多くも名を連ねているが、「正確な加盟者数や加盟議員の名簿などは『一切公表できない』」という秘密主義で閉鎖された組織でもある。著者が取材を申し込んでも、事務総長などは返事もなく拒絶だったそうである。

「そんなこと今頃知ったのか」と思う方も多くいらっしゃるかもしれないが、私にとってはまさかまさかの驚愕レベルの現実だった。
新型コロナウイルス対策がここまで後手後手になり、首相をはじめ閣僚の言動は大きく的を外しつづけ、しかも森友・加計・桜を見る会などさまざまな疑惑に誠実に対応していないにもかからわらず、それでも内閣支持率が暴落することなく40%程度を維持しているという不思議の理由は、きっとここにあるのだろう。読みながら納得した。

なにしろ、日本会議がめざすのは天皇制の護持だ。そして現行憲法が体現している戦後体制を打破することだ。
その目標をめざして『美しい日本の憲法をつくる国民の会』を立ち上げ、櫻井よしこなどが先導する『憲法改正を実現する100万人ネットワーク』の活動を各地の有力神社などを中心に「全国津々浦々」で広めてもいる。
だから、「憲法改正は私の悲願」と公言し、すでに小学校・中学校での「道徳の時間」の導入を含む教育基本法の改正を強行なやり方で実現した現首相は、彼ら彼女らにとっては“ヒーロー的存在”であり、憲法改正を実現するまでは彼に権力のトップの座にいつづけてもらわなければならないのだ。
感染対策がいかに論理的でなくても、遅れていても、説得力がなくても、失敗だったとしても、マスク二枚を全世帯に送りつけることが意味のない税金の無駄遣いでも、全くかまわない。ともかく、憲法改正が実現するまでは安倍政権を支持しつづける。そんな固い信念を抱いている人たちがいるから、40%程度もの支持率が保持されるのだ。新型コロナウイルスの感染対策に全ての政治家が集中しても手にあまるような緊急事態にもかかわらず、そのタイミングで改憲案を国会に持ち出してくるのも、日本会議という後ろ盾あってのことである。

読みながら、その現実に「なるほど」と納得させられるとともに、このままでは今後の日本の行く末が明るくないことの証拠を突きつけられた気がして、背筋に冷たい汗が流れた。ショッキングだけど、目を背けずに知っておくべきことだと思う。

著者の青木理さんは、「『安倍政権的なもの』や『日本会議的なもの』を許容するようになってしまった日本社会の変質」にも警鐘を鳴らす。
そして、「当面は日本会議と安倍政権が総力を傾注する憲法改正に向けた動きの成否がすべての鍵を握っているのは間違いない。それはまた戦後民主主義を ー いや、近代民主主義の根本原則そのものを守れるか否か、最後の砦をめぐるせめぎ合いでもある」と指摘している。
のほほんとしてはいられないほど、日本の民主主義は危機的な状況に追い込まれているのだ。

多くの人たちは、これまで数ヶ月にわたって新型コロナウイルス対策の迷走に振り回されながら、リーダーの独断で合理的ではない政策が決められることに対して大きな不安と不満を実感していると思う。この不安と不満を糧に、よりよい民主主義の模索が生まれることを切に祈る。

2冊を併読して、わかったこと

今回併読した2冊の著者に共通するのは、ニュートラルな姿勢で実体をあぶり出そうとする真摯な姿勢である。あくまで冷静なクリティカル視点を基軸にし、感情的に人格否定するような言説には傾かない自制的な姿勢も、両者に共通している。
そして2冊とも、平易なことばで、現実を客観的に見極めるための要素を提供してくれる。

『自民党』の分析においてマトリクスのⅣに分類される「パターナル」で「リスクの個人化」に偏った志向は、日本会議のそれとまさに重なる。だから、『日本会議の正体』を併読すると、Ⅳにプロットされる議員が掲げるヴィジョンの背景がよくわかる。
また、『日本会議の正体』を読んで、戦後どのように日本会議が基盤を築いてきたかを知っておくと、『自民党』で描かれた自民党政治の歴史的背景の理解も厚くなる。
というわけで、私はこの2冊をともに読むことを熱烈におすすめする。

そして最後に、来年もしくは早ければ今年に行われるかもしれない衆議院議員選挙に向けて忘れないように記しておきたいのは、中島岳志さんが『自民党』の終盤で指摘していることだ。

「安倍さんが2012年9月に二度目の自民党総裁に就任してから初当選した議員には、Ⅳの傾向が強く見られます。(中略)安倍チルドレンの一〜三回生議員が占める割合は、自民党衆議院議員全体の四割にもなりますこの若手議員たちは、右派的イデオロギー色が強く、自己責任論が基調となっている特徴があります。(中略)この層の議員たちが中堅・ベテランになる時期の自民党は、Ⅳタイプの政党としてまとまる可能性が高いでしょう。

……そんなことになったら、もはや「自由民主」の名と実体の乖離が激しすぎて党名変更を余儀なくされる事態だろうが、ともかく、そのようなⅣタイプの政治家たちが支配力を強めてしまったら、いったいどんな社会になってしまうやら。やだやだ、私は嫌だ。

いま、これまでの半世紀以上にわたって経済偏重で大量生産大量消費のライフスタイルを推進してきたツケとして地球規模の環境破壊が進み、その負の影響として近年、大きな自然災害が各国各地で連発するようになっている。今回のような感染症も、一連の影響と考えられている。
これから、負の影響がさらに大きくかつ頻繁に現れることが予測される中、被災者や社会的弱者に「自己責任」を取らせ、権力を持つ人たちだけがさらに富んでいくような未来を想像するのは、あまりに恐ろしい。

政治を軽視したり、冷笑したり、侮ってはいけません。『どのような社会』を生きたいのか』という人生観と直結するのが、政治なのですから」と中島岳志さんは著書を結んでいる。

議員を選ぶのは、選挙でしかできない。
その選挙で、私たちは候補者のヴィジョンと人物を総合的に判断したうえで、一票を投じなくてはならない。
だから、選挙期間だけではなく普段から、政治家たちの言動に注意を向けておかなくちゃならない。そして必要なときには意見や要望を伝え、それに対する反応も踏まえて、その政治家の考え方や思想や姿勢をしっかりと見極めておかなくちゃいけない。
2冊の本を読んで、しみじみとそう自分に言い聞かせた。

まずは、コロナ禍でぽっかりと空いてしまった時間を活用して、政治ウォッチングに勤しもうと思っている。