激しいモグラ叩きのような環境問題にまた一つ、顕在化してきたプラスチック汚染問題。さあ、どうする?

気になること

枝廣淳子著『プラスチック汚染とは何か』(岩波ブックレットNo.1003/219年6月)を読んだ。
プラスチック汚染の現状、課題、すでに始まっている国際的な対策や日本の対応、そして今後必要とされる行動は何かなど、今、私たちが知るべきことがまとめられているブックレットだ。
新聞などの報道で「大変なことが起きている」と認識はしていたが、あらためて問題の大きさ、そして解決の困難さに、読みながら胸が押しつぶされた。

近年、明らかにされてきた「プラスチック汚染」が「海洋プラスチック汚染」とも呼ばれるのは、さまざまな経路から排出された大量のプラスチックが最終的に海に流れ出ているからだ。
世界中の海のあちらこちら、海流によって溜まりやすい場所に、大量のプラスチックごみが海面を覆ったり海中に溜まったりしている。さらに波の衝撃や紫外線によって劣化して細かくなった5mm以下の「マイクロプラスチック」が無数に海を浮遊している。化粧品や歯磨き粉などに含まれるスクラブのようにもともと極小のマイクロプラスチックも、化学合成繊維から洗濯で剥がれたマイクロプラスチックも、排水を通して海に流れ出ている。アクリルタワシもしかり。自動車のタイヤ、道路の路面表示の塗装や人工芝が剥離したものも発生源だ。すべて、私たちの経済活動と生活が根元にある。
こうした小さなプラスチック片を貝や魚が摂取し、食物連鎖で人の体にも取り込まれている。摂取した生物の体に、プラスチックはもとより付着している化学物質がどのような悪影響をもたらすのだろうか。恐ろしくなる。

「手遅れなのではないか」という恐怖が胸にこみ上げてくるが、『プラスチック汚染とは何か』は、この問題を考えるときの重要なポイントも示してくれる。ここから学び、行動につなげなければ。「環境ジャーナリスト」の枠にとどまらない環境問題への取り組みを長年続けてきた著者の視点は明晰で、かつ「自分たちが解決しなければならない」という強い信念が貫かれている。

重要なポイントは4つ。
*供給源の問題か、吸収源の問題か
*さまざまな環境・社会問題の中で何にどのようにつながっているか
*ニーズ達成プロセスのどこに働きかける取り組みか
*取り組みの主体は政府か、事業者か、生活者か

4つのポイントに留意しながら、一人ひとりが、それぞれの仕事や暮らしの現場ですぐに取り組めることはある。やみくもに恐れるのではなく、問題を見極めてアクションを起こし、できるだけ効率的に解決に向けて進めるよう、どの立場の人が何に働きかけるのが有効かも考えてアクションすべきだ。落ち着いて、確実にアクションしていかなければ。悠長に構えている時間はなさそうだ。

著者は「おわりに」で述べている。「プラスチック汚染の問題も、『地球が支えられる限界を超えて、人間の社会や経済が地球から資源を取り出し、地球に廃棄物を戻している』という根本的な問題の症状の一つである。だれもが使っているからこそ、だれもが考え、取り組むことのできるプラスチック問題を契機に、真の意味での持続可能な社会とはどのようなものなのか、私たちはその実現に向けて何に取り組むべきなのか、対処療法を超えた議論が深まることを心から願っている」

現在起きている環境問題は、いま生きている人間すべてが加害者であり被害者だ。そして特に忘れてはいけないのは、未来世代にとっての加害者になっていることだ。そのことを、とりわけ先進国で物理的に豊かな生活を享受している人は強く肝に銘じておかなくてはいけない。
1960年代から賢明な科学者たちが環境問題のアラームを鳴らし、有害化学物質の規制、オゾン層を破壊するフロンガスの使用禁止、地球規模の気候変動の原因となる温室効果ガスの削減などの対策が行われてはきた。しかし、環境汚染も気候変動も簡単には解決できないどころか、問題はどんどん加速して膨らんできている。こっちから頭を出すモグラを叩いていたら、そっちにもあっちにもモグラ穴は増える一方で、穴の大きさもどんどん広がっていて、もはや叩いている暇がなくなっている……そんな現状に思えてため息をつきそうになる。でも、否応なく自分自身も被害を広げる原因を生みつづけてしまっている以上、悲観してばかりでは済まされない。