内なる闘志を沸き立たせたくなったら、『ダンダリン』を観よう!

日々の楽しみ

『呪いの言葉の解きかた』(著者・上西充子)を読んでいたら、ドラマ『ダンダリン』のシーンやらセリフやらが引用されていて、思わずレンタルビデオ屋に走り、本を読みつづけるより先にDVD5枚を優先して観てしまった。

めちゃくちゃ面白くてファイトが湧いてくるドラマで、観はじめたら、やめられない。
一気に観てしまいたくなったが、グッと我慢。
さすがに10話+最終話、合わせて560分だ。6晩にかけて、夕食後のひとときに楽しんだ。

竹内結子演じる労働基準監督官の段田 凛がある日、「西東京労働基準監督署」に異動してくるところから物語は始まる。
段田凛は「労働者を守る」という一徹な志をもって、労基法が守られていない職場やブラック企業に踏み込み、グイグイと違反を明るみに出し、ビシビシと正していく。

上司や同僚たちは、はじめは「余計な仕事はやらない」「計画を遂行するだけで十分」という腑抜けた姿勢が常態化していて、そんな段田 凛の徹底した行動に迷惑顔だった。しかし次第に「ダンダ化」され、「労働者を守る」という熱意を共有し、チーム一丸となって問題解決に挑むGメンに変貌していく。

周囲にどう見られるかなどおかまいなく猪突猛進に行動する段田凛を、竹内結子が爽快に演じている。そして今、超ホットな映画『新聞記者』に出演して話題になっている松坂桃李も、段田凛の「指導係」を上司から命じられて戸惑いながらも成長していく南三条和也を好演している。

このドラマのすごいところは、ありとあらゆる労働問題を取り上げていることだ。
「サービス残業」「名ばかり管理職」「労災隠し」「内定切り」「外国人技能実習制度の悪用」「残業代未払い」「裁量労働制による長時間労働」などなど、セクハラやパワハラも織りこみなが1話から最終話まで各種労働問題のオンパレードだ。

原作は、2010年1月から『モーニング』で連載されたコミック『ダンダリン一〇一』。原作者は田島隆(とんたに たかし)さん、漫画は鈴木マサカズさん。社会への問題意識、取材力、咀嚼力、エンタテインメントへの昇華力、すべてに感服する。
そしてコミックがドラマ化されて放映されたのが2013年秋。
いまから6年近く前になる。

しかし、せっかくコミックとドラマでここまで脚光を当てたにもかかわらず、数多くの労働問題は改善されていないどころか、昨年2018年には安倍政権が、労働時間規制から完全に逸脱する「働き方改革関連法」の改悪を進め、外国人労働者の受け入れを拡大する「改正入管法」も国会を通してしまった。むしろ、状況は悪化している。
「あんなにダンダリンががんばったのに!」と奥歯をギリギリ噛み締めてしまいそうになる。

しかし上西充子さんが『呪いの言葉の解きかた』で引用した場面を思い出さなければならない。
段田凛と南三条が、悪徳社長の意のままに膨大な残業を強いられていた社員たちの前で暗唱したのは、「労働基準法」の第1章第1条だ。

第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
◯2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

より良い労働条件は、与えられるのを待つのではなく、労働者自らも向上させることに努めなければならないのである。

思えば、より良く生きるための自由や権利は、自らが守り築いていかなければならないということは、憲法にも書かれていたではないか。

日本国憲法第三章 第十二条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。
 又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

社会も人も、放っておいたら悪い方向に流されていく。
つまりは、そういうことなのだ。
だから、一人ひとりが不断の努力を続けていかなければならないと、憲法も法律も教えてくれているのだ。

段田凛が体現するように、「言うべきことは言い、自分たちの社会を自分たちの手で、より良いものに変えていく」という行動を日々積み重ねていくことこそ、何よりも大切なのだと思う。

しかし、それは簡単なことではない。
かなり、しんどいことでもある。
だから、しんどくて辛くなったり、とりあえず流されてもいいやと思いそうになったら、また『ダンダリン』を観ようと思う。